音が旅するとき、その旅路の過程に存在する障害物によって影響を受けることはよく知られている。こうした音の波を利用して何かを測定しようとする試みのひとつとして、カナダの研究者が細胞生物学分野へ応用する技術を報告している。
トロント大学のWang Xらは、ラットの動脈平滑筋細胞を用いて立体配置した培養皿上で培養し、ラミニンやフィブロネクチンなど培養皿へ細胞が接着しやすくなる物質でコーティングした場合としなかった場合の接着度合いを比較した。評価手法は、on-line acoustic wave detectorと呼ばれる手法で、この方法を使えば、リアルタイムに細胞の状態を追跡調査することが可能で、感度も良好だと研究者らは言っている。
「細胞と細胞がどうやってお互いに影響しあっているか、その重要性を調べるのに、我々の方法は合理的なものなのです」
細胞が形態を変化させるにしたがって音波の伝わり方も変化し、この手法を使うことで、非破壊的に形態変化を追跡できることになる。将来的にはある薬剤の細胞に対する影響を調べるなどにも利用できるかもしれない。
ただし、現時点ではまだ使いやすいツールになっているとはいえず、MappleBiosciences社と共同開発を行っている最中だとの事。
▼【Chemical Biology】Cell research goes acoustic
▼【PMID: 18087618】Analyst. 2008 Jan;133(1):85-92. Epub 2007 Nov 28.
Surface immobilisation and properties of smooth muscle cells monitored by on-line acoustic wave detector.
▼【Analyst, 2008, 133, 85 – 92, DOI: 10.1039/b714210b】Surface immobilisation and properties of smooth muscle cells monitored by on-line acoustic wave detector
この技術はなかなか面白い。どのような結果が得られたとき、どのように判断するのかまでは記事からわからなかったが、音波形と細胞形態との関係があらかじめわかっていれば、ピピピ!っと一瞬で細胞の変化を峻別できることになる。
一次元の培養系ではそれほど恩恵があるわけでないかもしれないが、三次元の立体臓器モデルなどを作っていく際には、大いに役立つ技術になるのではないだろうか?