[Nature] 癌遺伝子が癌を抑制? 

ダウン症候群の患者は第21染色体を3本持つトリソミーとして知られ、これらの患者では固形腫瘍の発生率が低いことが疫学研究で示されていた。しかし、相反する成績も存在し、長い間、データの矛盾は解決されなかった。

:idea: 今回、ジョンホプキンス大学のSussan TEらは、癌のマウスモデルも用いて、ダウン症候群にみられるようなトリソミー(遺伝子を3つもつこと)と腸腫瘍発生との関係を調べ、第21染色体が3コピーあるときには腸腫瘍の一部の発生率が低下する一方で、同じ遺伝子が一つだけしかない場合(モノソミー)は、腫瘍の数が増えることを報告した。

:?: 研究者らは異数体マウスモデルTs65Dn、Ts1Rhr、Ms1Rhrを用いて検討を進め、(1つなら腫瘍発生が少なく、3つなら多いという)遺伝子量に依存した腸腫瘍の増加に関係する遺伝子として、転写因子Ets2を候補として突き止めた。

つまり、これまで癌遺伝子として知られていたEts2は、数が多いと腫瘍抑制因子としても働くということである。

【PMID: 18172498 】 Nature. 2008 Jan 3;451(7174):73-5.
Trisomy represses Apc(Min)-mediated tumours in mouse models of Down’s syndrome.

8-O Natureによる論文の紹介記事では、今回の試験結果は遺伝子と機能の間の複雑な関係を浮かび上がらせるものであるとしている。遺伝子そのものに相反する機能が内在しているあたりが面白い。

今後、遺伝子の倍数性に関係なく全ての個体で予防効果をもつEts2やこの手の癌化抑制効果をもつ遺伝子が、癌抑制のターゲットとなりうるかもしれない。