バクテリアが血液型を変える_O型輸血に福音か?/ Nature Biology

第256回米国化学会で「あらゆる血液型をO型に変える手法」が発表され、複数のメディアを賑わしています。本研究は英国の研究者がメタゲノミクスの手法を用いて行った研究の成果です。

どなたか、血液型O型の方はいませんか?
輸血にあたって、O型の血液は便利なもので、A型の人にもB型の人にもO型血液は輸血できるが、
O型の人はほかの血液型の血を輸血するわけにはいかない。もし、O型血液をたくさんストックしておくことができれば、大量輸血が必要な時に便利に違いない。

そんなことを考えたのだろうか、英国コロンビア大学の研究者らが米国化学学会で面白い発表を行った。
なんと、「あらゆる血液をO型に変えてしまう酵素を発見した」のだそうだ。

血液型には、A型、B型、AB型、O型の4つのタイプが存在するが、それぞれには異なった糖鎖がついている。例えば、A型血液であればA抗原、B型にはB抗原、AB型は両方をもっており、O型は両方共持っていないというように。また、血液にはRH factorと呼ばれる蛋白が存在し、これがあるかないかで輸血ができるできないが決まってくる。O型血液は免疫不適合の危険なく、だれにでも輸血できるので重宝する。

研究者らは2500近い菌類を調べ、Elizabethkingia meningosepticum と Bacterioides fragilis という二つのバクテリアにたどり着いた。これらの菌はA型やB型の血液から免疫不全の原因になる糖鎖を取り除く働きのある酵素を持っている。

これまでにも酵素で糖鎖抗原を除いてやろうということは提案されてきていたが、効率が悪かった。今回の発見では、既存の方法に比べて30倍も効率よく抗原を除去できると期待される。Dr. Withersらは、メタゲノミクスという手法を用いて、安全で経済的な選択的酵素を探そうと試みたのだった。

Source / ACS

 

メタジェノミクス(メタゲノミクス)は、環境サンプルから直接回収されたゲノムDNAを扱う研究分野で、従来の微生物のゲノム解析では単一菌種の分離・培養過程を経てゲノムDNAを調製していたが、微生物の集団から直接そのゲノムDNAを調製し、その雑多なゲノムDNAをそのままシークエンシングする。

つまり、一つ一つの菌を培養するには時間もコストもかかるので、何万という微生物の遺伝子を採取するために、組織全部を一緒くたに混ぜて、その中から全DNAを拾い出し、大腸菌がもつ糖鎖を切り出す酵素をコードする(もっている)遺伝子を含むDNAを成型するのである。この手法を使うことで、従来の方法では困難であった難培養菌のゲノム情報が入手可能となったのである。

研究チームは最初、蚊やヒルからDNAを取り出そうと思ったが、最終的には人の腸内細菌叢(おなかの中にはたくさんの細菌があります)からサンプルを取り出すことにした。というのも、消化管の中にはムチンと呼ばれる糖蛋白があり、このムチン糖は、血液型A型、B型の糖鎖に似ているのである。

通常、消化管内ではムチンとIgA等によって、腸内細菌や腸内細菌が産生する毒素が生体内に侵入してくることを阻止してる。今回は、腸内細菌をメタゲノミクスにかけて、目的とする血液型をO型に変換する(糖鎖を分解する)酵素を探し出したというわけである。

メディアが第256回米国化学会での発表報道で伝えるところによると、研究者らは、今、見出した酵素を検証し、大規模な臨床試験へ向けて準備中である。プロテインエンジニアリングの手法を用いて最も効率的な糖鎖除去酵素を作り出す努力は、これからも続く。

Reference

原著
Towards universal red blood cells
Geoff Daniels & Stephen G Withers
Nature Biotechnology 25: 427–428 (2007)
Novel glycosidases convert group A and B red blood cells to universal group O cells.

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