36歳女性の顔から皮膚が採取された。
この皮膚細胞、後に改名して改名してiPS細胞(induced pluripotent stem cell)と呼ばれるようになり、世界の注目の的となる。
その彼女の存在を確認したのは京都大学の山中氏らの研究グループである。研究グループは、昨年、マウスにおいて様々な細胞に分化する能力をもった幹細胞様の細胞が可能であることを報告し、再生医療への道を開くきっかけとして大いに世間の注目を集めたものである。マウスの場合、Oct3/4, SOX2, c-Myc, Klf4という4つの因子がiPS細胞の分化に役立っていた。
その後、マウス同様に胚を破壊せずにヒトの細胞を使ってES細胞と同等の全能性細胞を得ようと世界各地で活発な研究が行われてきた模様。
今回、山中氏らは、36歳女性から得た皮膚線維芽細胞にOct3/4, SOX2, c-Myc, Klf4という4つの遺伝子を導入することで、ヒトでもiPS細胞が作成できることを確認し、Cell誌に報告を寄せた。これら4つの遺伝子は核転写因子であり、他の遺伝子の活性化にも影響を与えていると考えられる。
京都大学グループの研究成果以前にもてはやされた(今も一部でもてはやされている)ES細胞では、将来はヒトに成長する胚を破壊して作るために倫理的な問題が常に付きまとった。
「生命の元を壊すとは何事だ!」
こんな声も根強く、研究への反対意見も多かったが、ES細胞の研究が脊髄損傷やアルツハイマー病の治療に役立つと期待されるのと同様、いや、それ以上にヒトのiPS細胞による再生医療には期待が高まっている。
▼【Press Release】Simple Recipe Turns Human Skin Cells into Embryonic Stem Cell-Like Cells
▼【pdf文書】Cell (2007), doi:10.1016/j.cell.2007.11.019
Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors
また、新聞紙上でも報道されているように、ウィスコンシン大学のames Thomson氏が率いる研究チームでも新生児の包皮細胞を用いてES細胞と同等の万能細胞をつくり出し、Scienceに報告した。ウィスコンシン大学のチームでは、 京都大学チームとは別の4つの遺伝子Oct3/4, SOX2, NANOG, LIN28を誘導することでヒト線維芽細胞から幹細胞様の細胞が誘導できることを確認している。
▼【PubMed】 Science. 2007 Nov 20; [Epub ahead of print]
Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells.
前途は明るいかのように書かれている報道発表が多いけれど、実際にはウィルスを使った遺伝子導入には臨床での応用に壁も多く、ここからが再生医療へ向けた本当の正念場になると思われる。
同じようにヒトでiPS細胞を完成させた中で、日本は顔の皮膚から。米国では新生児の包皮からという素材の違いがみられて面白い。
個人的には日本が一歩も二歩もリードしているように思いたい。もっともっと研究が進んでいけば、顔の皮膚が、肝臓になったり心筋になったりもするのかもしれない。
また、日米の研究者がそれぞれ別々に再生医療への次の一歩を踏み出したわけだが、ブッシュさんは「このような結果が得られるのを待って今まで胚を用いた再生医療に反対していた」というようなことを述べたのだとか。以下のようなニュースを見て政治家の立ち回りのよさに感心するのであった。
『引用』・・・・ 日米の研究チームが万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」をヒトの皮膚細胞から作り出したことについて、米ホワイトハウスは20日、「倫理的な研究の前進にブッシュ大統領は大変喜んでいる」と異例の声明を発表した。
キリスト教保守派などの意向をくむブッシュ大統領は、ヒト受精卵由来の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究は「生命の破壊」だと反対し、推進派の批判を浴びてきた。ES細胞研究の是非は来年11月の大統領選挙でも論点の一つになることが予想されており、イラク問題などで逆風続きの共和党側にとり今回の成果は好材料だと言える。
以上、毎日新聞 2007年11月22日 東京朝刊