[Nat Med] さよならドーパミン_統合失調症治療の新たな手段

僕はだれですか?
知人に会うたびに「僕はだれですか?」と聞いても誰も答えてくれない。
「なに言っているんだよ~」

その昔、星新一だったか他の誰だか忘れたけれど、ある日、知り合いに「僕は誰ですか?」とたずねてみたところ、みんな冗談だと思い何も答えてくれず、そのうち、「僕は誰ですか」と繰り返すのは異常だといわれて精神病院へ・・・なんて話を読んだことがある。

また、ある日、某企業でNo1の売り上げを上げているMRが、医師に依頼して患者を顧みない劣悪な治療をしている話を聞いたことがある。ちょっと薬の量を増やしたところ、安定していた症状が一気に崩れるという話である。

統合失調症という言葉は便利であり、近ごろ新聞紙上でも不用意に使われることがあるように思うが、本当にこの疾患で悩んでいる人の闇は大きいものである(と想像する)。

正しい患者に正しい治療が行われることを願っている。

さて、与太話はさておき、ネイチャー・メディスンの9月号に掲載された最新の話題をひとつ。

 

:idea: 統合失調症は、慢性的で複雑な異種性の精神障害であり、病理学的には脳の辺縁系における神経細胞内の興奮性および可逆性が消失した状態にあるという特徴がある。こういった病理学的特徴は、陽性症状(幻覚、妄想および思考障害など)や陰性症状(社会的引きこもり、無関心および情意鈍麻など)として行動に現われ、また、そのほかの精神病理的症状(精神運動遅滞、考察欠如、注意力および衝動調節の低下など)も来たす。

これまでにも長年にわたってグルタミンを介する神経伝達の変化と統合失調症は関連があるという指摘はされていたが、臨床における検討は十分でなく、動物実験では、代謝型グルタミン酸2/3(mGlu2/3)の選択的アゴニストが抗精神薬になる可能性が示唆されていた。

:?: 今回、イーライリリーのS T Patilらは、既存薬にはない新たな作用メカニズムの薬剤として、体内に入って薬物代謝を受けてからmGlu2/3の選択的アゴニスト作用を発揮するプロドラッグを用いて、統合失調症患者を対象に二重盲検プラセボ対照比較試験を実施した。

その結果、mGlu2/3受容体を刺激することによって統合失調症患者の陽性および陰性症状は改善可能であり、プロラクチン上昇や錐体外路症状または体重増加については、プラセボを投与した患者との差異を認めないことがわかった。また、この新たな作用メカニズムの薬剤は、この分野で既に広く使われているドーパミン受容体刺激薬であるオランザピンとも同等の安全性をもつことが今回の試験で示された。

以上、mGlu2/3受容体アゴニストは、抗精神薬としての作用をもつが、ドーパミンを標的としない初めてのの信頼に足る治療薬となる可能性が示された。

【PubMed】Nat Med. 2007 Sep;13(9):1018-9. 
Schizophrenia drug says goodbye to dopamine.

【PubMed】Nat Med. 2007 Oct;13(9):1102-1107. 
Activation of mGlu2/3 receptors as a new approach to treat schizophrenia: a randomized Phase 2 clinical trial.