[Appl Environ Microbiol] なぜキチョウのオスはメスになるのか?

ニューハーフと呼ばれる夜のチョウは、女に見えてもその実、男である。ところが、キチョウにおけるニューハーフはちょっと事情が違う。彼女の性転換の秘密には、キチョウに共生する細菌が関係していた。

ボルバキアと呼ばれる細菌は、昆虫に共生し、メスから卵を通じて次世代へ伝わり、寄生バチをオスだけで単為生殖するようにしたり、オスのチョウやダンゴムシにメスの機能を持たせたりするなど、性転換させてしまうことが知られていた。

:?: 今回、産業技術総合研究所のNarita SらがAppl Environ Microbiolの7月号に発表したところによると、性転換のメカニズムには意外な発見が認められたのである。

昆虫類では「共生微生物による生殖操作」と呼ばれる現象が知られており、日本でももっとも普通にみられる黄色いチョウチョウにも同じ現象があることはわかっていた。その性転換お原因となる細菌は、ボルバキア(Wolbachia)と呼ばれ、全昆虫種の20%以上に感染しているといわれる。

研究者らは、沖縄本島や鹿児島、種子島に生息し、ボルバキア細菌感染によって子孫がメスになるキチョウを利用し、キチョウの幼虫に抗生物質を与えて細菌の大半を除去する実験を実施した。その結果、細菌を除去したキチョウでは羽化率が低下し、羽化しても羽がよじれるなどの異常が生じることを確認した。これらの個体はほとんどが精巣と卵巣を併せ持つ雌雄同体で、オス化の働きが弱まったと考えられた。

つまり、まだ解明されていなかったボルバキアによる宿主昆虫の生殖操作システムにおいて、その作用点は初期発生段階に限定されず、長く幼虫期にわたり、メスへの性分化を起こしたというよりも、メスの形態や性質発現にかかわる仕組みを操作していることが明らかになった。

主な発見は以下のとおり

・共生細菌ボルバキアはキチョウに感染し、性転換を起こす
・ボルバキア感染によりメスだらけのキチョウ集団に抗生物質を与えると、ボルバキア感染は抑制され、その結果、キチョウの幼虫は正常に蛹化したものの、羽化に失敗し、形態や行動に異常をきたす雌雄の両方の機能をもつ間性個体が生じた。
・間性個体は、令幼虫期から3令幼虫期にかけて抗生物質の処方時期を変えたときにも生じた一方、完全な性転換を実現するためには、令幼虫期から3令幼虫期にかけて継続的なボルバキア感染が必要であった。

【PubMed】Appl Environ Microbiol. 2007 Jul;73(13):4332-41.
Unexpected Mechanism of Symbiont-Induced Reversal of Insect Sex: Feminizing Wolbachia Continuously Acts on the Butterfly Eurema hecabe during Larval Development.

8O 通常、オスとメスは受精時の染色体構成によって遺伝的に決まっているとされるが、近年の研究では雌雄の違いはかなりあいまいであることがわかってきている。知の冒険でも男と女の物語において、しばしば性転換の話題を取り上げてきたが、男女の違いは本当にあいまいであると感じる。

本報告は、共生細菌による昆虫の性転換機構にあらたな視点を持ち込むものであり、後期発生過程でも性転換可能であることを示唆する点で興味がもたれるものである。

こうした研究を進めていくことで、細菌感染による性転換の仕組みがわかれば、農薬代わりに選択的に性転換させて害虫を駆除しようという試みにもつながっていくものである。

さらにさらに研究が進んで、ヒトですら後天的に性転換できる時代が来たりして・・・

面白いのか、怖いのか?

よくわからなくなってくる。