[NEJM] 医師と製薬会社の関係

「 え~、この報告は昔のことでして
当時、まだ倫理的な問題もなく製薬会社の人たちと夜遅くまで飲み歩きながらいろいろ議論をしたものです。」

:idea: 先日、ある講演会での演者が、今では倫理的に実施できないような臨床試験の結果を示しながら語った言葉である。そこには医師と製薬会社の蜜月時代を懐かしむ響きが感じられた。医師とMRの親密な関係を懐かしく思う人、今でも続けている人、忌み嫌う人、世の中には様々な考えを持つ医師、産業界の営業マンが存在する。さて、今の時代、医師とMRの関係はどうなのだろうか?

:?: N Engl J Medの4月26日号に報告された論文では、医師と産業界の関係は一般的なものであり,専門領域や診療形態によって差があると書かれていた<後述>。

また、Biotoday経由で知ったGeorgetown University Medical CenterのFugh-Berman AらがPLoS Medicineに寄せたレポートによると、製薬企業の営業担当者は医師とフレンドリーな関係を築き、その親密な関係を利用して処方を要請するというようなことが書いてあった。

【Volume 356:1742-1750 April 26, 2007 Number 17】
A National Survey of Physician?Industry Relationships
【PLoS Medicine】
Following the Script: How Drug Reps Make Friends and Influence Doctors
【EurekAlert】
Drug reps use friendship to influence doctors
============

8-O PLoS Medicineの記事に、営業担当者に最も影響を受けやすいのはフレンドリーで外交的な医師なのだと書かれていたのは興味深かかった。たしかに、知識豊富なMRが必ずしも売り上げがよいわけでもなく、知識も持たないのに優れた売り上げを上げるMRというのが存在し、フレンドリーな関係を築くのが上手なMRは売り上げがよいことも多いと感じる。

下記に記したNew Engl J Medの記事では94%の医師が過去1年に製薬会社と何らかの関係を持ったと書かれているが、僕からすると6%もの医師が何らかの関係を持たずにいることのほうが驚きである。

医師の中にはMRとの接触を毛嫌いする者が少なからず存在し、自分の会社の薬の話しかしないMRや、自社の薬の知識しか持たずに売り上げ至上主義のMRが嫌われるのはよくわかる。もしかしたら、6%の医師のなかには、MRを無用のものだと考えている医師が含まれていたのかもしれない。

しかし、個人的に言わせてもらえば、MRを利用しない医師はもう少しずる賢くなればよいと思うことがある。自分の狭い専門領域の話題にしか興味を持たず、広い視野から自分の専門領域をみることに対して壁を作ってしまっている医師がいる。これは非常にもったいない。

MRの知識レベルは千差万別であり、その大部分は、医師からみると何も知らないに等しいほど知識レベルが乏しいことだろう。また、MRは売り上げがすべてであるために、そこに処方への取っ掛かりを求めるのは当然のことである。

しかし、忘れてならないのは、常にその先には「患者さんの役に立つかどうか」ということを念頭に置いた行動なのかどうかという問題である。あるいは大学であれば、学問の究明のために役立つ行為につながるかどうかということである。

冒頭での講演会で発言した医師は、決して製薬企業との蜜月時代を悪いものだとは感じておらず、むしろその利益供与によって科学の発展があったと感じていることがみてとれた。

製薬会社からの利益供与が都合のよいデータを誘導し、不都合を隠してしまう問題をはらんでいることは事実だが、逆に研究費不足を補って次の次元の研究への後押しをしている側面があることも忘れてはならない。

下記のNew Engl J Medの記事にあるように循環器医が製薬企業との関係が強いというのは、それだけ多くの市場がそこにあるからだろう。循環器系の大規模臨床試験が可能なのは、こうした製薬企業のバックアップがあってのことである。

ただ、パワーをもった外資系企業がパワーを持って時流をつくり、パワーを持って自分たちに有利な土壌を作ろうという動きがあるところを個人的に心配している。

規模の大きい企業は、規模の大きい市場でしかペイできる薬剤開発ができないのが現状である。経済的関係を規制するだけでなく、どのような工夫を加えることで市場規模の小さい分野へ経済協力の目を向けさせることができるのかという観点での研究がほしいと思う。

経済的関係を制限するのではなく、経済的関係をいかに上手にコントロールするかが重要だと考える。

===========
以下は、New Engl J Medの記事

:?: 今回、ハーバード・メディカル・スクールのEric G. Campbellらは、6専門領域(麻酔科,循環器科,家庭医療,一般外科,内科,小児科)の医師 3,167名を対象に全米調査を行い、医師と産業界の経済的関係についての情報を収集し、94%の医師は製薬業界となんらかの関係をもっていると報告した。(ここでは、あえてMRと考えて記載するが、論文では医療機器メーカーの営業マンも含まれている)

関係の内訳は以下のようなものであった。

・ 職場での飲食物の受け取り 83%
・ 薬剤サンプルの受け取り  78%
・ 学会や勉強会への出費償還 35%
・ 顧問料、講演料、治験への患者登録料 28%

診療科別にみると

・ 循環器医は家庭医の2倍の提供を受けており
・ 家庭医はほかの診療科の医師よりもMRとの面会頻度が高かった。
・ グループ診療を行う医師は病院やクリニックで働く医師よりもMRとの面会頻度が高かった。

なお、この調査の粗回答率は 52%で、重み付けをした回答率は 58%であった。

【Volume 356:1742-1750 April 26, 2007 Number 17】
A National Survey of Physician?Industry Relationships