[NEJM] 死ぬ権利は何を変えたか

「先生、お願いです、どうかこれ以上苦しませないでください」
「まだ希望を捨てちゃ、ダメですよ」(でも、もう無理だよな)
「だけど、いっそのこと死んだ方がましなんです、死なせて下さい」
「そ、それはできません」(でも、本当は楽にさせてあげたい・・・)

:idea: 終末期医療の現場で、日々、医師と患者の葛藤は続く。そんな中、オランダでは2002年に医師による終末期介入の規制に関する法令が発効された。

日本では、まだ終末期医療に関する規制が不十分で、耐えがたい苦痛を有する患者の要請に応えてあげたいと医師が思っても、何処までが許され、何処からが殺人になってしまうのかがわからない状況にある。

:?: 今回、Erasmus Medical Center(ロッテルダム)のAgnes van der Heide氏らは、2002年の法令施行後、安楽死や医師による自殺幇助、およびその他の終末期医療がどのようになったのかを2005年に調査し、その結果をNEJMに報告した。

彼らは、死亡診断書で同定した死亡 6,860 件に立ち会った医師に質問票を郵送して調査(回答率77.8%)した。その結果、2005 年のオランダにおける全死亡に占める安楽死の割合は1.7%、医師による自殺幇助は0.1%を占めることがわかった。なお、全死亡の 0.4%は、患者の明確な要請のない状態で死に介入したことによるものであった。

2001 年の安楽死による死亡は全死亡の 2.6%、医師による自殺幇助による死亡は 0.2%だったことから、オランダ安楽死法の施行により,安楽死や医師による自殺幇助の割合が若干減少したことがみてとれた。

逆に、死期を早める可能性のある方法と併用して用いられた持続的な深いセデーションは2001年の5.6%から2005年では7.1%と有意に増加しており、安楽死や自殺幇助にかわって、緩和的鎮静のような他の終末期医療の適用が増加した可能性が考えられた。

また、この調査から、医師は自分がとった行為を安楽死や自殺幇助とみなしたとき、その行為を報告する確率が高いこともみてとれた(2005 年には,安楽死または医師による自殺幇助の全症例のうち,80.2%が報告された)。
【NEJM】Volume 356:1957-1965 May 10, 2007 Number 19 
End-of-Life Practices in the Netherlands under the Euthanasia Act

8-O 人生の最後をどのように迎えたいかは、そのときの状況や人それぞれで様々に違うものである。

非常に難しい問題をはらむ終末期医療だが、ある程度の基準が定められることで、行為を選択することが出来るようになる。

その行為の良し悪しはともかく、法整備がされることで密かに行われていた行為が透明性のある行為として報告されることになるだろう。このようなことは、終末期医療の今後の施策を考える上でも、有益な情報収集につながることだと思う。

生きていることとは、生かされていることとは異なる状態であり、個人的見解としては、「死ぬ権利」があってよいものだと考える。

考えれば考えるほど、難しい問題である。