[Nature] ダークサイド 詐欺ジャーナルと詐欺研究者 本物が迷惑

「投稿した我々の論文はその後、どうなっていますか?」
「いえ、あなたからの投稿を我々は受け付けていませんよ」
「そ、そんな!確かにジャーナルのウェブサイトから投稿料も振り込みました。」
「ウェブサイト?それはどんなウェブサイトですか?」
・・・・
「それは、騙されましたね」

銀行やオンラインショップでのフィッシング詐欺はよく耳にするが、まさか、科学者が論文投稿時にだまされるとは。。。

Nature誌が2013年3月号で取り上げたのは、欧州の科学誌を装った詐欺事件に引っ掛かった研究者のお話である。定評ある欧州の科学誌2誌が成りすまし犯罪にあい、数百人の研究者が著者負担金を騙し取られたそうだ。偽論文への投稿料は500ドルを超えており、支払いはアルメニアにある二つの銀行口座へ送金するように指示されていたとのこと。

詐欺にあった研究者もたまったもんじゃないが、ジャーナルのほうもたまったものじゃない。
雑誌の名誉が傷つけられたことは悲しく、対策に多くの時間を浪費しているのだから。

犯人たちは、今回の詐欺ターゲットとなった雑誌が専門のウェブサイトを持っていないことに目をつけ、正しい雑誌名に加え、そのインパクトファクター、住所やISSN雑誌コード(国際標準逐次刊行物番号)まで模倣し、驚くことに、トムソンロイター社のインデックスにまでリンクを作ることに成功していたのだ。なお、詐欺発覚後、リンクは削除されているそうだ。

▼ Sham journals scam authors
  Nature 495, 421?422 (28 March 2013) doi:10.1038/495421a
http://www.nature.com/news/sham-journals-scam-authors-1.12681

▼ Investigating journals: The dark side of publishing
  Nature 495, 433?435 (28 March 2013) doi:10.1038/495433a
http://www.nature.com/news/investigating-journals-the-dark-side-of-publishing-1.12666

迷惑するのは、詐欺に騙された雑誌社、そして、善良な研究者などである。

そうかと思えば、善良な研究者の一方で心無い悪徳研究者もいるから厄介だ。
iPS細胞で話題になった誰かさんなど、虚言癖のある明らかな捏造であっても、これを査読の段階で拾い上げるのはなかなかむずかしい。

もうひとつ厄介なのは、悪徳出版社の存在だ。

悪徳出版社は、内容などどうでも良くて、とにかく金払いのよい研究者からお金を巻き上げ、掲載しようとするので、論文の品質に問題があることも少なくない。

科学者の気持ちとしては、より多くの人々に自身の研究を知らしめる機会を増やすためにも、著者が読者にかわって費用を負担し、少し多い手数料を支払うことでより広く認知されれば、論文の引用数もふえるんじゃないだろうか?などといわれれば、その気にもなるし、査読のうるさいジャーナルに出すよりも、手早く論文として提出したい、という心理もはたらいてくる。

じゃあ、どんな相手が悪質なのか?

私自身、国際学会での発表に対して、2種類の出版社から投稿のお呼びがかかって舞い上がって喜んだが、そのどちらもトップジャーナルと呼ばれる一流誌であった。しかし、一方は無料での投稿、もう一方は有料での投稿と違いがあり、有料の側が悪質な出版社かというとそうではなく、「善良な商業誌」であると判断している。

その雑誌が、信頼にたるかどうかは経験による判断がものをいうのだろうが、参考になるリストが存在する。

金目当てのオープンアクセス(OA)出版社リスト(いわゆるBeall’s List)

http://scholarlyoa.com/publishers/” target=”_blank”>http://scholarlyoa.com/publishers/”>http://scholarlyoa.com/publishers/

というものが知られている。

このリストを知っていれば大丈夫か?

イエスでもあり、ノーでもあろう。

その努力には敬意を表すべき立派な情報源だが、これにも問題点は指摘されている。

Scientific American のブログに載っていた記事を紹介してみよう。
It’s not about predators, it’s about journal quality
http://blogs.scientificamerican.com/information-culture/2013/05/24/its-not-about-predators-its-about-journal-quality/

略奪者(金をとって論文を載せようとする商業出版側)ではなく、ジャーナルの質についての問題であろう。といった意見である。

品質もおざなりに出版を続ける悪徳業者がいる一方、正直な商業出版というのもあるので、その線引きは難しいものである。「金目当て」かどうかは出版社の動機しだいだとは言え、これを見分けるのはなかなか難しい問題だ。

「金目当て」のジャーナルの商業誌タイトルに、アメリカで出版されていないにもかかわらず、アメリカンジャーナル オフ ○○・・・などと名称がついている事例が多いと指摘する次のような記事も興味をひく。

Are ‘predatory’ publishers an American export?
http://www.researchinformation.info/news/news_story.php?news_id=1250

Beall’s listの6割近くは米国内に出版社があり、米国が輸出元?ってなことになっている。
また、このリストは偏見に満ちているとも意見されている。

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とにもかくにも、

・ 研究者も信じられない
・ 出版社も信じられない
・ それを指摘するリストにも問題はある

となれば、いったい何を信じればいいのだろうか?

お金を持ったところが強い世の中にはなってほしくないものだ。
ノバルティス社のディオバンの捏造(Google検索)など、もう日本での営業活動を停止させたい気分である。

本物が迷惑を被るのは避けたいものである。
本物と偽者がちゃんと区別されるためには、個々人の判断力がものをいう。

なんと難しい世の中なのか。。。

そんなことを考えた。