異所性脂肪 ectopic fat

異所性脂肪は、2008年頃から光があたってきた考え方で、心疾患との関連が明らかになりつつあります。いわゆる皮下脂肪や内臓脂肪とは異なり、これ以外の部位(肝臓や筋肉など)に蓄積する脂肪のことです。肝臓や筋肉のほかに、心臓やすい臓に蓄積することが知られており、特に細胞中に貯蔵されると毒性を発揮します。

ectopic fat

皮下脂肪:脂肪は皮膚と筋肉の間に貯まり
内蔵脂肪:大腸や小腸の周りにつく
異所性脂肪:肝臓・筋肉・血管などに蓄積

 
メタボリック症候群は、内臓脂肪に伴うインスリン抵抗性が原因と考えられてきましたが、インスリン抵抗性の増大には内臓脂肪だけでなく、異所性脂肪が関与していることが明らかになりつつあります。通常、肝臓や骨格筋肉ではインスリンが細胞表面にあるインスリン受容体に結合してシグナル伝達が起こり、糖の取り込みが促進します。しかし、細胞内の脂肪(トリグリセリド)が増加すると相対的なジアシルグリセロールなどの増加が生じてインスリンのシグナル伝達不全を引き起こします。

心疾患と異所性脂肪に関するこれまでの研究から冠動脈疾患患者の心臓周囲には多くの脂肪が付着していることが分かってきました。日本人は欧米人に比べて皮下脂肪の貯蔵能力が低いため、異所性脂肪が蓄積しやすく、少し太っただけで肥満に関係する病気にかかりやすいという見解も出されています。

この第3の脂肪を評価する方法として、心臓周囲の脂肪評価には、CTを用いた心外膜脂肪組織の評価が行われます。また最近では、MRIに体外コイルを組み合わせた1H-Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)と呼ばれる装置を用いた方法も開発され、細胞内の脂質量と細胞外の脂質量を区別して評価する方法も登場してきました。

異所性脂肪は、「外食と油ものを控える」「大盛りのごはんを少し減らす」「肉などの飽和脂肪酸を多く含む食品の過剰摂取を控え、肉を魚に変更する」等の食事制限と、運動量の確保をするだけでもかなり減らすことができます。順天堂大学の田村氏らは、食事療法単独と、食事療法に1日160kcal相当の運動をさせた群に分けて2週間の介入試験を行った結果、両群ともに体重は2%ほどの減少にとどまったものの中性脂肪は正常化し、肝臓内の脂肪量(IHL)は両群とも30%ほど減少し、肝臓でのインスリン抵抗性は50%ほど改善したことを報告しています1)。特に、筋肉での細胞内脂肪量(IMCL)は食事制限だけでは変化が見られなかったのに対して運動療法併用群では20%程度の減少が観察されました。

太っているのに健康な人。
痩せているのに不健康(糖尿病や脂肪肝等)。

太っているのが健康に悪いというイメージに合わない人々の「なぜ?」のカギは、異所性脂肪にあるのかもしれません。

より詳しく知るには・・・

メディア

これまでの放送:肥満は悪くない?(動画あり)|NHK 追跡!AtoZ

http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/list/100306.html <リンク切れ>

文献

▼ PMID: 15769987

Tamura Y et al., J Clin Endocrinol Metab. 2005 Jun;90(6):3191-6.
Effects of diet and exercise on muscle and liver intracellular lipid contents and insulin sensitivity in type 2 diabetic patients.
書籍紹介

異所性脂肪《メタボリックシンドロームの新常識》

日本人なら知っておきたい「異所性脂肪」の恐怖 (ワニブックスPLUS新書)

この研究から日常生活を考えるーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■異所性脂肪と糖尿病

骨格筋では、糖分もエネルギーにしています。
筋肉内に脂肪が増えると、糖分をブロックしてしまうため、
血液中の糖分が増え、血糖値が高くなり糖尿病につながります。

■なぜ、筋肉に脂肪がたまるのか?→筋肉の質の低下

筋肉を使わないと酸素を使った脂肪燃焼が減ります。
すると筋肉の中に脂肪が蓄積されてしまいます。
これは筋肉の質が低下した状態です。

■筋肉の質を高めるには

筋肉の質の低下は運動不足です。
普段の生活で運動の量と質が改善されれば、
異所性脂肪の増加を防ぐことができます。