[NEJM] 太極拳はパーキンソン病の転倒予防に有効

パーキンソン病では立位時の姿勢制御能力が低下し、進行すると姿勢の安定性や歩行機能障害が起こり、転倒の頻度も高くなります。大極拳は、中国で市民が早朝から公園に集まって練習している風景でしられるように、東洋哲学の重要な概念である太極思想を取り入れた拳法で、健康・長寿に良いとされています。

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これまでパーキンソン病患者の平衡障害など運動機能の低下に対して医療従事者は運動を推奨するものの、効果が実証されたプログラムはほとんどありませんでした。

今回、米国国立神経疾患・脳卒中研究所からの研究助成を受けたTai chi氏らは、パーキンソン病患者195名を太極拳群、レジスタンストレーニング群、ストレッチ群の3群に分け、24週間観察しました。

患者は60分の運動セッションに週2回参加し、主要転帰は安定性の限界を調べる検査でベースラインからの変化量としました。結果、太極拳プログラムは、副作用もなく、レジスタンス訓連やストレッチ訓練に比べて姿勢保持障害や転倒予防に有効であることが示されました。

▼PMID: 22316445
 N Engl J Med. 2012 Feb 9;366(6):511-9.
 Tai chi and postural stability in patients with Parkinson’s disease.
 Li F, Harmer P, Fitzgerald K, Eckstrom E, Stock R, Galver J, Maddalozzo G, Batya SS.

補足

今回、対象とした患者は、ホーエンヤールの重傷度分類で尺度1~5(数字が大きいほど重症)のうち、1~4の軽度から中等度を対象としていました。

転倒は寝たきりにもつながる重大な問題であり、このような無作為比較試験で運動(太極拳)の有用性が示されたことは価値あるものと思われます。太極拳のあのゆっくりとした動作はかなり筋力を必要とするなかなかきつい運動です。のんびりしているように見えても、動作をゆっくりするのは見た目以上に大変なものです。

太極拳がなぜ、パーキンソン病患者の運動障害に有効であったかは定かでありませんが、おそらく膝や臀部(おしりの筋肉)などのジスキネジア(抗パーキンソン病薬の服用に伴って起きる不随意運動の総称)を減らし、体幹を強化したことが成果につながったものだと思われます。

パーキンソン病患者では歩幅が小さくなり、歩行スピードが重症度と関係するといわれていますが、太極拳により歩幅が広くなり、歩行スピードも改善することが期待されます。