
失意の国外追放から6年後、
腹痛や吐血に苦しみ、大量の汗をかきながら苦しんだフランスの英雄ナポレオン・ポナパルトは2カ月で10~15Kgほど体重が減り、自分は毒を盛られているのではないか?と疑いながら、毎日のように浣腸治療を受けていた(のかもしれない)。
彼の父は胃がんにより死亡したことが知られており、ナポレオンの死因は胃がんであったという説が有力である。しかし、後に彼が毒を盛られていると疑っていたことが知られるようになり、事実、彼の髪の毛から砒素が検出されたことで毒殺だという説が注目を浴びるようになった。また、このほかにも、ある種の医療ミスだという説までその死因について様々なことが語られている。
今回、University Hospital of Basel(スイス)のLugli Aらは、歴史的資料をもとに現代の胃がん患者135名の臨床病理学的データと比較しつつ、ナポレオンの病状を考察し直し、彼の病因を特定しようと試みた。その結果、彼の死因は進行性(ステージIIIA)の胃がんであり、毒殺でなかったとの報告を臨床医向けの消化器病学専門誌「Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol」に発表した。
Lugliらの検討結果によると、直径10cmを超える腫瘍が噴門から幽門に広がり、浸潤性は認めなかったことから少なくともT3ステージだったと判断された。また、胃周囲のリンパ節に腫大や硬化を認めたことからN1ステージにあたり、遠隔転移がなかったことからM0ステージだろうと推察された。おそらく、ナポレオンの死因は少なくともT3N1M0(ステージⅢA)の胃癌であったと考えられた。
胃の検視所見によれば、胃には瘢痕が存在し、彼がヘリコバクター・ピロリ菌に感染していたことが伺われた。彼の胃がんは、散発性で進行性の胃ガンであり、こうした癌の予後は非常に悪いことが知られている。
▼【Bloomberg】
Napoleon Died of Stomach Cancer, Not Poisoning
▼【PubMed】Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol. 2007 Jan;4(1):52-7.
Napoleon Bonaparte’s gastric cancer: a clinicopathologic approach to staging, pathogenesis, and etiology.
関連
▼【Yahoo知恵袋】
ナポレオンは毒殺ではなく、胃がんで死んだという説の信憑性はどうなのですか?
▼【X51.org】
英雄ナポレオン・ボナパルトは浣腸で死せり
▼【Biotoday】
ナポレオンは胃癌で死んだ
面白いことを研究対象にするものだ。それが最初の感想だった。
そして、調べてみると既にこの報告を取り上げている人々がたくさん存在することも知った。その中でYahoo知恵袋の回答者が僕の気がつかなかった視点を語っていた。
よってカルテを信じるなら直接死因は、たとえ癌でも、これらの処方、つまり医療ミスが原因ではないか考えられるのです。
ちなみに最近の研究ではアレクサンダー大王も嘔吐剤として古代に用いられていたトリカブトに過剰摂取によって死亡した可能性があるとされ、
医者が殺人者だったというのはありえない説ではありません。
なるほど、そういう考え方も出来るのだと感心しつつ、体重が2ヵ月で15Kg減るという事態からしても、素直に胃がんが原因と考えてもいいんじゃないかとも思うのだった。
先日、ピロリの旅路というエントリーで、ヨーロッパにピロリ菌が入り込んだのは、人類が東アフリカからヨーロッパへ移動したのと時を同じくするという話題を取り上げたばかりである。こうした見解と重ね合わせて考えるとまた、この話題は興味深い。