「おい、すごいぞ~」
「まだ走っている!」
「こりゃ、超耐久レースのドーピングに使えるぞ!」
「いやいや、筋萎縮性側索硬化症の治療に光だよ」
NatureNewsがマウスをスーパースポーツ選手にする遺伝子について取り上げた。
これまで、筋肉には速筋(fast-twitch;瞬発力をもたらす筋肉繊維)と遅筋(slow-twitch;持久力をもたらす筋肉繊維)があり、短距離走に強いスポーツ選手と長距離走に強いスポーツ選手を分けていることが知られていた。しかし、速筋1つと遅筋2つ以外にも4つ目の筋肉繊維として「IIX型ファイバー」と呼ばれるタイプが存在し、通常はマウスの筋肉中に15%~20%の割合で存在していることが分かっていた。
今回、ハーバード大のArany Zらは、まだよく働きが分かっていなかったIIX型ファイバーを「PGC1-β」と呼ばれる遺伝子を活性化させることで、ほぼ100%に増加させる事に成功した。そして、このマウスは通常のマウスよりふみ車を長時間回し続ける(25%増)ことが可能であり、PGCのサブタイプにより筋肉タイプが変わること、そして、IIX型ファイバーが運動能力向上に役立っていることを示した。
この結果は、光と影をもたらすものである。
影の部分を捉えた場合、IIX型ファイバーを増やすことはスポーツ選手が運動能力を増すことにつながるため、遺伝子操作や何らかの薬物によりIIX型ファイバーに働きかけるドーピングが横行するかもしれないことが懸念される。
一方、光の側面を捉えた場合、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)など、筋肉が消耗してしまう病気の治療法の糸口になるかもしれない。
また、転写制御因子(PGC-αがとPGC-βというサブタイプ)の違いで筋肉繊維の選択性も変わることが示されたことで、今後は、世界の超一流選手たちが、IIX型ファイバーを遺伝的に受け継いでいるのか、その遺伝子タイプはどのようなものなのか、そして、トレーニングによってIIX型ファイバーのような筋肉繊維タイプが増えるのかなどが研究されていくと思われる。
▼【Nature News】Published online: 2 January 2007
Boost in mystery muscle creates endurance mice
Rare muscle fibres could improve sporting prowess.
▼【PubMed】Nature. 2002 Aug 15;418(6899):797-801.
Transcriptional co-activator PGC-1 alpha drives the formation of slow-twitch muscle fibres.
▼【PubMed】 Cell Metab. 2007 Jan;5(1):35-46.
The Transcriptional Coactivator PGC-1beta Drives the Formation of Oxidative Type IIX Fibers in Skeletal Muscle.
先日、無理を楽しむ人々 [nature news]というエントリーで何がウルトラマラソンなどの超耐久レースを可能にさせているのだろうか?という話題を取り上げた。恥ずかしながら、今回の記事を読むまで瞬発力と持久力は速筋と遅筋の割合で決まると思っていた。
未だ、何が超耐久レースを乗り越える力になっているかは分からない。しかし、転写因子の制御により筋肉タイプが変わるのだから、これは、筋肉タイプがトレーニングや薬物療法で変更可能かもしれないということも意味していると思われる。良くも悪くもなんと、エキサイティングなことだろう。
そんなことを考えた。