「糖尿病の人は突然死が多いって本当?」
「そう言われているね」
「知覚神経障害があるから心筋虚血に気が付かず、無理しちゃうのかな?」
「ん~、なんでだろ?」
こんな会話があったかどうかはしらないが、糖尿病心筋虚血のメカニズムに疑問をもった研究者らは、神経の栄養因子に着目して研究を掘り下げていった。そして、その成果が、Circulationに報告された。
糖尿病患者は心臓自律神経障害を合併することがある。神経障害があると心臓知覚閾値も低下し、自覚症状のない心筋虚血を引き起こす原因となる。
慶応大学のM Ikedaらは、心臓の知覚神経系制御における神経成長因子(NGF)に焦点を当て、糖尿病患者に認める心筋虚血のメカニズム解明を試みた。その結果、糖尿病の心臓知覚神経制御は、心臓で生合成されるNGFに依存し、高血糖によるNGF減少が心臓知覚神経障害の原因になることがわかった。
以下、実験結果の抜粋。
・NGFの組織分布は心臓痛覚神経の発達部位に一致した。
・カルシトニンカンレンペプチド(CGRP)は、NGF依存的な痛覚神経の存在を反映した。
・糖尿病を惹起したマウスではNGF発現が低下し、心臓痛覚神経の変性や後根神経節の萎縮性変化、心臓の知覚神経機能は抑制された。
・逆にNGFを過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、糖尿病を惹起しても組織変化は認めず、心臓の知覚神経機能も抑制されなかった。
・糖尿病ラット心臓にNGF遺伝子を導入した結果、心臓知覚の神経分布や機能は改善した。
▼【PubMed】Circulation 2006 ;114(22):2351-2363.
Nerve growth factor is critical for cardiac sensory innervation and rescues neuropathy in diabetic hearts.
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なんと見事な成績だろう。
必ずしも糖尿病患者が栄養過多とは限らないが、一般的には栄養過多栄養過多だと考えられている糖尿病患者が、逆に神経の栄養不足で無痛性心筋梗塞や突然死のリスクを起こすなんて、なにやら皮肉な話である。
糖尿病専門誌、Diabetologiaの最新号には、別の栄養(脳由来成長因子)が糖尿病の人で低下しており、これが糖尿病で認知症が多い理由を説明する要因になることが報告されていた。
▼【PubMed】Diabetologia. 2007 Feb;50(2):431-8. Epub 2006 Dec 7.
Brain-derived neurotrophic factor (BDNF) and type 2 diabetes.
疫学成績と分子生物学的手法が結びつくと、頭の中にあった様々な点が線でつながっていくようで、なにやら、わくわくしてくる。二つとも、実に興味深い報告である。