[Critical Care] 言われたって覚えちゃいない

「おい、聞いていないぞ!」
「言いましたよ!」
「いや、聞いていない!」
しっかり伝えたつもりなのにその事が相手に伝わっていないということは少なくない。それは、日常生活だけでなく、病院の集中治療室(ICU)でも同じである。

Geneva大学(スイス)のCatherine Chenaudらは、スイスの大学病院における集中治療室(ICU)で、炎症反応を観察する臨床試験を始める前にトライアルに関するインフォームドコンセント(患者の同意)をとって、その後、患者がどのくらい臨床試験の目的やリスクを理解していたか調べ、学術誌「Critical Care」に発表した。

 

患者44名が集中治療室(ICU)でのインフォームドコンセントを約10日後に覚えていたかどうかを調べたにところ、事前に聞かされていたにもかかわらず、3分の2の患者はその臨床試験の目的やリスクを覚えていなかった。リスクと目的を覚えていたのは44名中14名で、覚えていた人々は、リーフレットを読み、少なくとも1回は質問していたそうである。

インフォームドコンセントは、事前に一回だけすればよいということでなく、再訪問時に繰り返しするのが望ましいと著者らは考えている。

【Eurek Alert】
Patients unaware of risks and purpose of research even after informed consent
【Critical Care 2006, 10:R170 】
Informed consent for research obtained during the intensive care unit stay
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普段の生活でも、「言った」「言わない」というすれ違いは起こることであり、ICUにいるという不安定な精神状態のときに何かを一回聞かされてもわからないのは当然である。

臨床試験のみならず、手術をする前に医師から患者に対する同意文書の取得は、よく行われる。このとき、患者サイドは分かりもしないのに返事することもあるだろうし、医師の説明が十分でないためにリスクがあるとは感じていないこともあるだろう。

知識背景の違う患者と医師の間のコミュニケーションは難しい。

インフォームドコンセントのとり方というのは、医療コミュニケーション能力を非常に要する技術だと思う。

★ 「伝えた」から、相手に「伝わっている」とは限らないのである。

これは、学校の先生や営業マン、あらゆる人が常に頭の片隅で考えておく必要のあることだと思う。

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臨床試験を進めていても、うまく患者に説明して試験がすすむ医師、同意がとれずに終わってしまう医師、様々である。

臨床試験のインフォームドコンセント取得においては、正直すぎても、不誠実でもよろしくない。信頼関係が構築されている状況下で正しい情報をしっかり伝えることこそ、インフォームドコンセントの極意だと思うのだが、実はこれが最も困難なことである。

数年前、娘の病気で訪問した救急病棟で、医師が初めて会うなり、目も合わせずに「臨床試験に参加してもらうかもしれません・・・」と切り出してきたのを思い出す。

僕は、その分野を分かっているから良かったが、こんな切り出し方をしていたのでは患者も不安になるだけだろうなと思ったものである。

あ~、病院に寝泊りして娘の看病をしたのを思い出す。
その娘は今、病気のことなど覚えていない(ようだ)。