「どこを見ているんですか?」
泌尿器科医の視線は禿げ上がりつつある患者の額に向かっている。
「発毛促進剤など使っていますか?」
薄毛が目立つようになったことを気にしていた患者は「失礼な!!」と思ってはいけない。医師は「Lancet Oncology」の報告を思い浮かべ、まじめな話をしていたのかもしれないからだ。
「Lancet Oncology」にBrigham and Women’s Hospital and Dana-Farber Cancer Institute(米国)のAnthony D’Amico博士が報告したところによると、40~60歳の男性308人を調べた結果、男性型脱毛症(AGA;Androgenetic Alopecia)に使われる発毛促進剤であるfinasterideが前立腺癌のスクリーニングに使われるPSAのレベルを下げる作用をもつことが分かったそうだ。同氏は、PSA検査にあたっては、この薬剤を使っているためにPSA検査値が下がっていることも考慮すべきであると述べている。
▼【Doctor’s Guide】
Hair-Growth Drug Artificially Lowers PSA Levels in Prostate Cancer Screening
▼【PubMed】Lancet Oncol. 2007 Jan;8(1):21-5.
Effect of 1 mg/day finasteride on concentrations of serum prostate-specific antigen in men with androgenic alopecia: a randomised controlled trial
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5αリダクターゼは男性ホルモンであるテストステロンをジヒドロテストステロンに代謝する酵素で、男性の薄毛を引き起こし促進させることが知られている。この酵素を抑制するのがFineasterideであるが、Fineasterideは前立腺肥大の治療薬の中にも含まれている。
ちょっと考えればそれほど意外な結果ではないのだが、プライマリケア医が検査値を評価するときに総合的な判断が必要だという一つの例として興味深かった。