[Journal of Feline Medicine] ネコの頭の中の消しゴム

「わたし、頭の中に消しゴムがあるのよ」
悲しそうな顔をした女性が、死よりも切ない別れを前につぶやいた言葉である。若年性アルツハイマー病により徐々に記憶を失っていく切なくも悲しいストーリーを綴った映画では、物語の中で「消しゴム」の正体が語られることはない。しかし、その消しゴムの正体がわかれば、この物語も違った結末を迎えていたのかもしれない。

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エジンバラ大学王立獣医学部(英国)のDanielle Gunn-Moore氏が、老齢ネコの頭の中にも「消しゴム」が存在していることを、獣医学誌「Journal of Feline Medicine」に報告している。

彼らが、自分のネコちゃんにどんな感情を抱きながら実験をしたのか分からないが、目の前にいるネコちゃんを救うことの向こう側に、ソン・イジェンが演じた女性のようにアルツハイマー病で苦しむ患者を思い浮かべ、患者とその家族を救いたいと考えていたに違いない。

近年、ペットの飼育環境は改善され、ペットの寿命は延びている。屋外ではなく屋内で大切に飼われるネコは寿命が長いそうだ。普通なら12歳くらいで老いぼれ亡くなるはずのネコちゃんも、近頃ではもっと長生きをする。

長生きしたネコの頭の中には、知能低下をもたらす原因となるたんぱく質が増えてくる。これが「消しゴム」の正体である。Gunn-Moore氏らによると、11~14歳の飼いネコの28%、15歳以上の半数以上が、加齢による行動障害を少なくとも1つは発症していたのだそうだ。

ネコの寿命は人よりも短いため、彼らは、老齢ネコの脳内で生成される老人斑を調べることでアルツハイマー病に対する治療的介入(食事や薬など)の影響を調べようと考えている。彼らによると、食事や飼い主との良好な関係は、ネコの認知症リスクを減らすのだそうだ。

【HealthDay】Cats Can Get Alzheimer’s: Study
【A Winn Foundation Health 】The Geriatric Cat

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映画「わたしの頭の中の消しゴム」で主人公を演じたソン・イェジンは、かわいらしい。可憐で愛くるしい身近な存在のパートナーがアルツハイマー病で記憶をどんどん失っていくのは、さぞつらいことだろうと想像できる。この辛さは、高齢者であっても同じだろう。自分の親がアルツハイマー病で子供のことを忘れてしまうと考えれば、それはつらいことである。

人と同じ問題は、ペットの高齢化でも認められる。

若くして発症するアルツハイマーと加齢によって発症するアルツハイマーは、発症機序が異なるかもしれないが、高齢化したペットのネコを使った研究により、今後、アルツハイマー病発症、進展に関して様々なことが解明されていくことを期待する。

ネコにもアルツハイマー病が存在するということは、既に知られた事実だったようだが、このことを知って、「改めて長く生きるって何だろう?」などと哲学的なことを考えたのだった。