[Annals of Family Medicine] 抗生剤の処方を減らす方法

「お医者さんに連れて行こうと思うんだけど・・・」
「止めときなさい、家でゆっくり休んだほうがいいよ」
「でも・・・、薬もらったらよくなるかもしれないじゃない」
風邪をひいてつらそうな子供を見ていると病院へ行きたくなるのが母親というものなのか、我が家でいつも繰り返される喧嘩の元がある。風邪をひいた子供を病院へ連れて行くかどうかということである。

 

インフルエンザが流行する季節毎に「風邪やインフルエンザの原因になっているウイルスは細胞膜を持っていないため、抗生物質などの薬は意味がない」と専門家による啓蒙活動が繰り返される。しかし、いくら専門化が啓蒙活動をしても、風邪で病院へ行く患者は多いし、抗生物質を処方する医師はあとを絶たない。

無意味な抗生物質の処方は、抗生物質の効かない細菌を生み出してしまうので避けるべきだといわれているが、評判を気にする医師は、患者の求めに応じて「とりあえず抗生剤」処方を行ってしまうこともある。じゃあ、「とりあえず抗生剤」を止めるためにプライマリケア医は何ができるのだろうか?

家庭医学の専門誌「Annals of Family Medicine」の最新号に、その解決のヒントが紹介されていた。Ghent大学(ベルギー)のMieke L. van Drielらは、急性の喉の痛みを訴えた患者298名について、家庭医を訪問した理由や症状、病気の経過、患者が何を望んでいるかを調査した。その結果、抗生物質の処方を訴える患者は、喉の痛みが放置しておいても治るとは考えておらず、処方を望んでいない者に比べて自分のことを重症だと感じ、抗生物質が病気回復に役立つと信じている傾向が強いことが分かった。

この調査から、急性咽頭痛を緩和することが抗生物質の処方要求を減らすことにつながるかもしれないことが示された。

【Annals of Family Medicine 4:494-499 (2006)】
Are Sore Throat Patients Who Hope for Antibiotics Actually Asking for Pain Relief?

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「抗生物質で喉の痛みがとれる」と思うこと自体、おかしな気もするが、開業医にとって患者から「抗生物質を出してください」と言われれば、患者からの評判を考える上でも素直に要求に従うほうが楽なのかもしれない。

しかし、抗生物質は、あくまで、細胞膜を持っている細菌(バイキン)に対して作用する薬なので、風邪に対する治療効果を期待するのは間違いなのである。我が家の近所では、すぐに抗生物質を処方するT医院は大人気であり、何もせずに「大丈夫ですから」と言って家へ帰してくれるN医院は、閑散としている。

何かが間違っていないかい?

保険医療費の抑制には、無駄な医療を望む患者への啓蒙活動こそ、大切だろうと思うのだった。

近頃、ノロウィルスが大流行のようだが、当然、ノロウィルスも細菌ではないので抗生物質の投与対象ではない。