[Nature] 女を男にする遺伝子

遺伝子上は女、なのにちゃんと機能する睾丸を持つ男が存在する。
Nature 10月16日号オンライン版に登場するイタリアの家族は、なんと驚いたことに兄弟(姉妹ではない!!)4人そろってXX染色体を持っているそうだ。

近頃、若者の中性化現象が起こり、ニューハーフやトランスジェンダーという言葉が一般にも認知されるようになってきた。今の世の中、男と女の境界線はあいまいになってきているように感じる。しかし、遺伝学上は男と女の境界線は明確なはずだった。ところが、XX染色体(通常は女性である)を持っているのに女性と言い切れない「彼」がイタリアに存在する。しかも4人兄弟として!

通常、女性の性染色体は、父親から受け継いだX染色体と母から受けついたX染色体の2本からなるXX染色体で構成されている。男性の場合は、父親からY染色体を受け継ぐのでXY染色体になる。そして、一般的には、オスのY染色体上にあるSryという遺伝子がオスかメスかを決定し、Sry遺伝子により睾丸が作られるとされていた。

ところが、父親のX染色体上で突然変異が起こってX染色体上にSry染色体をもつ精子が受精してしまうと、XX染色体を持っているのに(Sryが働くため)オスになってしまうことがある。

この事実だけでも驚きであるが、今回の症例が面白いのは、もう一歩進んだ新発見にある。

女を男にする遺伝子

教科書的に考えれば、オスの発生にはメスが基本になっていて、Sry遺伝子が働くことによってメスから睾丸を持つオスが誘導されるはずである。ところが、今回のイタリアの兄弟は、Sry遺伝子を持っていなかったのだという。

イタリアのPavia大学の研究者らは、XX染色体をもつ4人兄弟を調べ、この兄弟が男を決定するとされていたSry遺伝子を持たない代わりにRSPO1という遺伝子に変異を持つことを突き止めた。

この結果から、遺伝子のカスケード(連続的な流れ)により性の決定が行われていることを示している。SOX9と呼ばれる遺伝子は、SRY遺伝子上で精巣形成に働く。一方、女性の場合、SOX9と呼ばれる遺伝子は、通常、RSPO1遺伝子により抑制(スイッチ・オフ)されており、ほかの経路の働きによって卵巣が形成されていると考えらる。

今回の症例の場合、RSPO1遺伝子が突然変異したため、SOX9遺伝子のスイッチオフが上手く働かず、SOX9遺伝子の働きが残ったためXX染色体であるにもかかわらず、精巣が形成されたと思われる。

上記の考え方は、動物実験によっても確かめられている。XX染色体を持つマウスにSOX9を発現させると、精巣を作るようになったのである。

対照的な二つの考え方
女を男にする遺伝子という考え方は、従来の女から男が生まれてくるという考え方とは対照的な考え方であり、男を何が決定しているのかを考える上で示唆に富む。

RSPO1は、何らかのマルチタスクな働きをもつ蛋白であり、性別決定経路の重要な鍵を握るとともに、この家族では、全員が皮膚硬化や皮膚がんを患うという方向に仕向けている。こうしたことをりかいしていくことによって、性別決定の理解につながると思われる。

==============

僕は3つの点でびっくりした。

・ XX染色体を持っているのに男性であるという事実。
・ 4人兄弟がXX染色体を持っているという家系があるという事実。
・ XX染色体にSry遺伝子を持たないのに、男であるという例外中の例外が存在した事実。

すごいな~!

追記;

いつだったか、オリンピックの陸上競技かなにかで金メダルを取った女性アスリートが、遺伝子検査の結果男だと判明し、金メダルを剥奪されるという事件があったように記憶している。このような時、男性を判断する基準がSry遺伝子の存在であったと思う(勘違いでしょうか?)。

イタリアのこの兄弟は、Sry遺伝子がないわけで、性染色体はXXなのだから今の基準で言えば「女」だと主張できることになる。

男と女の境界線は、本当にあいまいなものである。

そんなことを考えた。