[Neurology] 約10Kmの歩行が認知機能低下のリスクを防ぐ

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* 仕事で忙しくしているうちに1ヵ月が経過してしまった。ちょっと古くなったけどせっかく書いた記事なので、そのまま掲載。

NHKスペシャルでアルツハイマー病の特集をやっていた。その中で「高齢だから仕方がない」と言われていた認知症の老人が、水頭症の手術をすることで劇的な認知機能の回復を示したケースが紹介されていた。

高齢者の水頭症は、歩行障害や軽い痴呆、尿失禁などをひきおこすが、高齢であるという理由で精査されずに放置されているケースも少なくないらしい。高齢者の水頭症の原因は完全に解明されていないものの、脳にある水「脳脊髄液」の循環障害が指摘され、脳にたまった髄液が脳を圧迫するために症状がでると考えられており、治療には過剰にたまっている脳髄液をおなかへ流す「脳室―腹腔シャント術」が行われる。

番組の中で、脊髄液を抜く検査をしたときに「頭がすっきりしてきた」と漏らす患者の姿。そんな劇的な効果があるものなのかと驚いた。その後、手術によって認知症が改善した患者の姿は、表情が格段に明るくなっていたのが印象的だった。

それはさておき、認知症。

高齢社会において大きな問題となる病気のひとつだが、生活習慣の改善で少しでもリスクが減らせるのであれば、取り組むに越したことはない。これまでに運動と脳の灰白質容量に関係があるといわれていたが、長期にわたってこの関係が存在するのかどうかははっきりしたデータは無かった。

米ピッツバーグ大学のK.I. Ericksonらは、299名の認知的に健康な成人(平均年齢78歳)を対象に被験者が1週間に歩いたブロック数(距離)を記録し、身体活動と認知パターンの関係を評価した。その結果、より多く歩いた被験者は、13年後の海馬や下前頭回、補足運動野などの灰白質組織容積が運動量の少なかった被験者に比較して大きく、認知障害が発現する可能性も半減することがわかった。

興味深いことに、認知機能は追跡9年目において全例正常だったのに、その4年後(追跡13年後)には3分の1近くで軽度認知障害または認知症が見られるようになっていたのである。この種の疾患が評価に長い年月を要することをあらわしているといえるだろう。

具体的にどのくらい運動していればいいのか?

彼らの見当によれば、歩行と灰白質容積の関連性は、週約6~9マイル(約9.6~14.5km)という比較的長距離を歩く人に当てはまり、これ以上たくさん歩いたからといって更なる恩恵を得られるというわけではなさそうだ。とはいえ、定期的に歩き、体を動かす習慣を維持すればアルツハイマー病のリスクを減らせる(なんと脳容積を維持できるのだ!)というのであれば、運動をしない手はないだろう。

⇒原著へのリンク
Published online before print October 13, 2010, doi:10.1212/WNL.0b013e3181f88359)
NEUROLOGY 2010;75:1415-1422
Physical activity predicts gray matter volume in late adulthood
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20944075?dopt=Abstract

⇒参考リンク
1)HealthDay Walking 6 to 9 Miles a Week May Help Save Memory

冒頭で少し触れたNHKの番組だが、水頭症の手術を終えた老人の表情がすごく明るくなっていたのは印象的だった。

昔の人は、今ほど交通手段も発達していなかったので歩く機会も多かったと思われます。高齢化社会になって、高齢者が増えたことが認知症の問題をクローズアップさせているが、実は人々の運動量が減っていることこそ、問題とされるべきことなのかもしれない。

今、剣道の練習にきている90歳の先生は、年齢を感じさせないほど元気である。これもひとえに日々の運動の成果なのかもしれない。

そんなことを考えた。