[Am J Clin Nutr] チョコレートを欲しがる患者

最近、やたらとチョコレートを食べたくなる。ふと、去年10月に行われた第32回日本救急医学会での発表を思い出した。チョコレートを無性に欲しがった患者に希望にしたがってチョコレートを与えたところ、多発外傷から骨髄炎を発症し、食欲低下と全身状態悪化で困っていた患者がみるみる回復していったという埼玉医科大学の高度救命救急センターからの発表のことだ。

その報告ではチョコレートに含まれるカカオにはさまざまな作用(抗酸化、抗ストレス、抗齲歯、抗潰瘍、抗菌、創傷治癒促進、皮膚血流増加、亜鉛吸収促進)があると報告されていたと記憶している。

そんな記憶を頭の片隅にとどめながら「American Journal of Clinical Nutrition」3月号の発表を目にしたところ、ブラックチョコレートを食べるとインスリン感受性が改善され、血圧が低下するのだ発表されていた。この結果はL’Aquila大学(イタリア)の研究者が健常者15例をブラックチョコレートを食べる群とホワイトチョコレートを食べる群に分けて比較した結果から報告したものである。

黒・白、それぞれのチョコレートを1週間の洗い出し期間を経て交互に約2週間食べさせ、インスリン抵抗性をHOMA-IRで比較した結果、HOMA-IRの平均値はブラックチョコレート摂取後0.94±0.42、ホワイトチョコレート摂取後1.72±0.62と両群で有意な差があったそうだ。また、収縮期血圧は、ブラックチョコレートを摂取したときの方がホワイトチョコレートを食べた後よりも低かった(107.5±8.6 vs. 113.9±8.4 mmHg、p<0.05)。

ブラックチョコレートは、ポリフェノールをおよそ500 mg含有し、ホワイトチョコレートはおそらくポリフェノールを含有していなかったとコメントがあるが、その他の成分の違いがこの試験結果に影響した可能性は否定できない。

【Medscape】Dark Chocolate May Improve Insulin Sensitivity/Resistance and Blood Pressure

【PubMed】Am J Clin Nutr. 2005 Mar;81(3):611-4.
Short-term administration of dark chocolate is followed by a significant increase in insulin sensitivity and a decrease in blood pressure in healthy persons.


やたらとチョコレートを欲する僕の体は、もしかして日々の激務に悲鳴を上げているのだろうか?

チョコレートは甘くて虫歯になりやすいし、甘いものをたくさん食べていると太って糖尿病になってしまう。そんな思いを抱く人も多いことだろうが、必ずしもこの考え方は正しくないということが多くの研究からわかってきている。

チョコレートを欲しがる患者がいたら、素直にその要求を聞き入れてやるのが治療の早道かもしれない(?)。

ここはひとつ、体が欲するままにチョコレートの一気食いでもしてみようかな・・・。

そんなことを思いながら、食料保管庫の奥にあったブラックチョコレートを見つけて口にした。