暑い夏が近づいてきた。
これから先、暑さに耐え切れないといってクーラーをつける人がいたかと思うと、寒いといって温度設定をあげる者も出てくることだろう。オフィスで仕事をしていると、暑さに強い人と弱い人の間で最適な温度設定をめぐって争いが生じることがある。
どうして我々には暑さに強い人と弱い人がいるのだろうか?
「暑さ」にも単一遺伝子が関連していることを示す興味深い基礎研究が行われている。
京都大学のTakeuchi Kらは、ジストログリカン (DmDG) に関わる遺伝子に変異のあるショウジョウバエを作って幼虫が集まる温度を調べた。その結果、通常の野生バエは22度を好むが、遺伝子操作により作成されたハエは、17.5度付近の低温に集まる「暑がり」タイプ、28度付近に集まる「寒がり」タイプ、温度に左右されず低温から高温まで幅広く分布する「暑さ知らず」タイプの大きく3つのタイプに分類することができた。なかには、零下2度という通常のハエならば生き残れない環境でも1時間生き延びるハエもいたそうだ。
ジストログリカンは細胞膜を安定させて情報を伝えるタンパク質であり、上手く働かない場合、細胞がカルシウムイオンを過剰に取り込み、エネルギー代謝異常が亢進すると考えられる。この遺伝子の異常があった「暑がり」タイプでは、代謝の異常を抑えようとして低温を好むのかもしれない。
これらの結果は、単一の遺伝子変異が動物のエネルギー恒常性や温度に対する反応に影響を与え、温度調節性応答とミトコドリアの酸化的代謝が密接に関わっていることを示している。
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PMID: 19325118
Science. 2009 Mar 27;323(5922):1740-3.
Changes in temperature preferences and energy homeostasis in dystroglycan mutants.