よ~、頭白くなったな!
お前は、薄くなったんじゃないか?
髪は長い友達とはよくいったもので、人と出会ったときに年齢変化を最もよく表す指標でもあるかもしれない。
これまでにも白髪の原因については活発な研究が行われてきており、髪の毛の色を決定する色素細胞の供給源(これを色素幹細胞という)が加齢に伴って質的に変化し、枯渇することが原因であることは分かっていた。では、なぜ色素幹細胞は枯渇してしまうのだろうか?
この謎の解明を続けてきた東京医科歯科大学のNishimuraらのグループが、白髪のメカニズムを明らかにし、Cell誌の2009年6月号に発表した。
研究者らは、幹細胞の居場所(これをニッチという)においては、まだ分化していない色素幹細胞(これを未分化という)のみを認めるが、加齢に伴って未分化な色素幹細胞に変わってメラニンを持った色素細胞が出現する(つまり幹細胞が分化している)という現象を見いだした。
傷ついたDNAを修復する遺伝子を持たないマウスに放射線をあてて実験したところ、微量の放射線で体毛が白くなったマウスの毛根部分では、色素幹細胞が色素を作る細胞に分化していたのである。
通常、色素幹細胞は毛根部にあり、自己複製を繰り返しながら色素になる細胞を供給しているが、放射線によるDNA損傷というストレスが加わることで、幹細胞は自己複製機能を失い、色素の細胞の元になる幹細胞がなくなるために白髪が進むと考えられた。
この結果は、「髪の色の供給源となる幹細胞が死んでしまうから枯渇する」という考え方が、アポトーシスによって起こるのではなく、「分裂能力のない色素細胞への変化を促進すること」が幹細胞枯渇の原因であったという、ちょっと驚きの内容である。
今後は、幹細胞を維持する仕組みを調べていくことで、髪の色の供給源を維持する仕組みだけでなく、様々な種類の幹細胞を維持する仕組みの解明にもつながっていく可能性がある。
▼原著(有料購読)
Cell Volume 137, Issue 6, 12 June 2009, Pages 1088-1099
Genotoxic Stress Abrogates Renewal of Melanocyte Stem Cells by Triggering Their Differentiation
▼PMID: 15618488
Science. 2005 Feb 4;307(5710):720-4. Epub 2004 Dec 23.
Mechanisms of hair graying: incomplete melanocyte stem cell maintenance in the niche.
Nishimura EK, Granter SR, Fisher DE.
ニュース報道
▼読売新聞:白髪の原因はストレス…東京医科歯科大教授ら突き止める
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090613-OYT1T00053.htm
▼毎日新聞:白髪:東京医歯大など、仕組み解明 再生医療応用に期待
http://mainichi.jp/select/science/news/20090612ddm003040115000c.html
▼47NEWS:白髪の原因はDNA損傷 毛根の色素幹細胞が枯渇
http://www.47news.jp/CN/200906/CN2009061101000956.html
ニュース報道記事をみると、記事の内容こそ正しく書かれているものの、まるで白髪の原因がはじめて解明されたかのような印象を受けるタイトルである。読売の記事タイトルは、「白髪の原因はストレス」などと誤解を与えるものであるし、47NEWSにおいても今回の研究結果の新鮮さがまったく伝わってくるタイトルではない。
その意味で、いつも批判されることの多い毎日新聞は、ぼやかしてタイトルをつけている分、まだまし?なのかもしれない。科学のニュース報道では、より一般化した表現を使うほうが受けがよいので、ついつい、「受ける表現」をタイトルにつけたくなってしまうが、これは自重せねばならないことであろう。