[Nat Med] てんかん発作を防ぐ標的?

てんかん(癲癇、Epilepsy)は、古くはソクラテスの時代から知られていた疾患で、世界人口の約1%が罹患するといわれる。昔は子供の病気と考えられていたが、実際には高齢者にもてんかん発作はみられる。いまもって、てんかんの病因に関わるメカニズムは十分に解明されていなかった。

今回、ベローナ(Verona)大学のPaolo F FabeneらがNature Medicineの2008年12月号に報告した成績は、長いこと解明されてこなかった「てんかん発病の仕組み」を解き明かし、予防および治療の標的候補につながる成果なのかもしれない。

研究者は、マウスのてんかんモデルを用いた検討により、てんかん発作は、脳血管の細胞接着分子の発現増加と、白血球が脳の循環系の中で動きを止める現象(白血球ローリングの抑制)に関連することを示した。そしてこのとき、白血球が停滞した脳循環系の中では、白血球のムチンであるPSGL(P-selectin glycoprotein ligand-1)とインテグリンα4β1、αLβ2が大きな役割を担っていた

遺伝子操作によりPSGLの機能を邪魔したり、阻害抗体によって白血球と脳血管の接着を阻害したりすると、てんかん発作は顕著に減少した。また、好中球を枯渇させた状態では急性てんかん発作の誘発および慢性の自発性再発性てんかん発作は抑制された。

脳には、危険な異物を通さないための特殊な仕組み、血液脳関門(BBB)が備わっているが、急性てんかん発作においてBBBでは漏出を起こしやすくなっている。白血球と脳血管の結合を阻害すると、BBBの漏出が抑制されたことからも、てんかん発作において白血球の接着が重要な役割を担っていることが推測される。

彼らの成果によれば、てんかん発作の発生には白血球と脳血管の相互作用が重要であり、このことは、てんかん患者の脳では対照に比較して白血球が多いという事実とも矛盾しない。

▼PubMed > Nat Med. 2008 Dec;14(12):1309-10.
Brain inflammation initiates seizures.
▼PubMed > Nat Med. 2008 Dec;14(12):1377-83. Epub 2008 Nov 23.
A role for leukocyte-endothelial adhesion mechanisms in epilepsy.

ひとことで、「てんかん発作」といってもその種類はさまざまであるため、研究成果が簡単に治療薬へと結びつくものではないと思われる。しかし、動物実験とはいえ、特定分子の阻害によりてんかん発作が抑制されたことは興味ある知見であろう。

古く、誰もが知っている病気や症状でも、まだまだわかっていないことは多いものである。