[Science] 新手法によるiPS細胞作製に成功 

日本人科学者のノーベル賞受賞で明るいニュースの続く科学研究だが、未来のノーベル賞候補、山中教授のグループがiPS細胞の臨床実用化へ向けた新たな一歩となる研究成果をScience誌10月9日号に報告した。これを記念して、山中博士のキャラクターを作ってみた。
 

 iPS(induced pluripotent stem cell;人工多能性幹細胞)とは、様々な形態や機能を持つ細胞に分化することができる多分化能力をもった細胞であり、再生医療への応用が期待されている。あらゆる細胞に変化する性質・能力をもつという点では、1998年に樹立されていたヒトのES細胞と同じだが、受精卵がなくとも、ヒトの皮膚細胞から作れてしまったところが大騒ぎされる理由になっている。
 
 しかし、これまでに山中氏らが報告したiPS細胞では3~4種の遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を体細胞に導入して作る際、レトロウイルスなどの感染力を利用して細胞への運び役に用いていた。このため、レトロウィルスが細胞の核にある染色体に入り込む危険があり、これは癌を生じるリスクにつながるとの危惧があった。

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 今回の新手法では、初めてウイルスを使わない手法によりiPS細胞を樹立した。新手法では、遺伝子の導入にプラスミドと呼ばれる環状の運び役を用いて、マウス線維芽細胞に遺伝子を導入し、神経細胞への分化を確認することとした。これまで、プラスミドを用いた場合、複数遺伝子を導入するのが難しいとされていたが、同氏らのグループでは、遺伝子同士のつなぎ方に工夫を加えることで、複数遺伝子を同時に働かせるのに成功した模様である。

 そして、新しく作られたiPS細胞を観察したところ、細胞内にプラスミドが組み込まれた形跡は認められず、より安全にiPS細胞を作成できたことが確認された。ただし、本手法は、ウイルスを使った従来の手法に比べると、遺伝子の導入効率が100分の1以下と悪く、現時点ではマウス胎児の細胞を利用していることから、今後は、大人のマウスやヒトでの応用へと研究を進めていく必要があると思われる。

PMID: 18845712 > Science. 2008 Oct 9. [Epub ahead of print]
Generation of Mouse Induced Pluripotent Stem Cells Without Viral Vectors.
Reuters > New method generates stem cells safely from mice