
2008年のノーベル化学賞を受賞した下村氏のことはマスコミなどでも報じられているが、そのインタビュー音声やウェブサイトへのリンクはあまり紹介されていないようなので、ここで紹介しておこうと思う。
ノーベル化学賞は下村氏_GFPの発見
GFP(Green Fluorescent Protein)を蛍光マーカーとして用いた生命科学研究の成果は、しばしばビジュアル面でも絵になる研究成果としてマスコミをにぎわすことがある。細胞骨格や神経細胞を蛍光染色した映像は、どこか神秘的な美しさを我々に感じさせるものである。この蛍光マーカーを用いた神秘的な映像が、Green Fluorescent Protein (GFP)というウェブサイトで公開されている。
▼The Nobel Prize in Chemistry 2008 > Glowing proteins ? a guiding star for biochemistry
▼Green Fluorescent Protein (GFP)
http://www.conncoll.edu/ccacad/zimmer/GFP-ww/GFP-1.htm
すでに報道されているように、下村博士が研究対象としたのはオワンクラゲの緑色に光る秘密の探求である。
この当時、ホタルのような生物による発光現象はルシフェリンという発光物質と酵素の反応でおきると考えられていたため、最初は体内のルシフェリンを抽出しようと実験が繰り返されていた。しかし、この方法では失敗が繰り返されるばかりであった。
では、どうしたか?
下村博士がこの研究を継続する上で取ったのは「とにかく光るものを取り出そう!」という単純な発想であった。しかし、この当時、”自ら光るたんぱく質”の存在は知られておらず、実際、教授からも研究の方向に賛成を得られてわけでなかった。
ここで止めないのが、事を成すか成さぬかの別れ道かもしれない。
下村博士は、自身のアイデアに基づき実験を繰り返す中、ある日、pHを酸性域に保つことで光らなくなることを突き止め、博士はこの物質をオワンクラゲの学名にちなんで「イクオリン」と命名した。
しかし、まだ解明できない問題はあった。オワンクラゲは緑色に光るのに、イオクリンは青色である。なぜなのか?ここでも成功話によくある逸話が登場する。
pH調節によって光る物質の分解を抑制できることが分かり、実験廃液を流しに捨てたとき、パッと流しが光を発したのである。青ではなく、緑色の光を。これを見逃さなかった下村氏は、イオクリン精製時に取れた緑色に輝く副産物を追求し続け、ついにこの物質が青い光のエネルギーを受け取りカルシウムと反応して緑色の光を放出することを突き止めたのである。
流しで緑色の蛍光発色を目撃してからというもの、下村博士は奥さんとともに毎年夏ごとに5万匹以上のクラゲを捕り続け、19年間、17回の夏をクラゲ捕獲に費やし、合計850,000匹のクラゲを使って、発光メカニズムの解明に取り組んだのである。
”That’s an extraordinary collection!”
これは、ノーベル賞受賞の連絡インタビューのなかでインタビュアーが思わず漏らした言葉である。
この8分間にわたるインタビューば以下のサイトで確認できる。まことにもって失礼な話だが、長年、米国に住んでいる割には英語の発音がいかにも日本人であるところが、英会話ができないと悩んでいる多くの科学者に勇気をあたえるのではなかろうか?<勝手な発想ですね>
▼Telephone interview with Osamu Shimomura (8 minutes)
インタビューでも、このあたりの彼の人柄が出ているような気がする。若い人へのメッセージを求められて彼はこう答えている。
「何でも良いから自分が面白いと思ったことをやりなさい。そして、途中で絶対にあきらめないことだよ」と。
彼自身、研究への挑戦にあたって「だれもやらない、難しいこと」だから取り組んだのだというようなことを答えている。言うのは簡単だが、これは本当に難しいことだと思う。
彼が行ったことはオワンクラゲがどうして光るのかという問題を解明したに過ぎない。
彼自身は自分が疑問に思ったなぞを解明しただけで、その応用を念頭において研究をはじめたわけでもないのである。
❗
下村氏はインタビュアーの勘違いに以下のようにコメントしている。
No, no, no, no, no. Just luminescent protein; bioluminescent protein. I think people confuse luminescence and fluorescence. There are two kinds of protein in the jellyfish. One is a luminescent protein just we talked, that name is aequorin. Another one is a separate protein which emits green fluorescence. That is the subject protein in this Award.
よく勘違いされることに、luminescence(発光)とfluorescence(蛍光発光)の違いが挙げられる。オワアンクラゲには二つのたんぱく質があり、イクオリンは発光タンパクである。今回の受賞対象となったタンパクは、イクオリンではなくもうひとつのタンパクの方である。緑色の蛍光を発するタンパク、Green Fluorescent Proteinが受賞対象となったたんぱく質である。
実際、GFPを生命科学研究への応用へと導いたのは、Chalfieらの功績であり、彼らなくして下村博士のノーベル賞受賞はなかったであろう。とはいえ、下村博士の業績なくしてChalfieらの成果もなかったわけである。
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突然、話は変わってしまうが、日本人のノーベル賞受賞といって喜んでいる我々だが、物理学賞の南部氏も下村氏もともにアメリカに住んで研究を継続しているという点、しっかり受け止める必要性はないのだろうか?これを問題点として訴える報道はあっただろうか?
下村氏は米国にい続けた理由として、米国での研究環境の良さ(予算やサラリーが多く、納得いく研究ができた)を挙げている。研究者が自分の興味に基づいて研究できる環境が果たして日本国内にあるのかどうか?この点を政府は再点検することも必要だと思う。