[Lancet] 顔面移植後2年が経過した

[顔を潰す」などという表現を使って、人の立場を悪くさせてしまったような状況を表すことがあるが、冗談抜きに、本当に顔がつぶれてしまった人々の苦悩はかなり大きいことだろう。

フランスで行われた世界初の顔面移植の話題はこのブログでもたびたび取り上げてきた。その後中国でも顔面移植が行われた。最近のLancetに中国の症例の2年後の経過が掲載されていた。

ヒグマに襲われて顔面を損傷した李さん(30歳)は、安西の病院で2006年4月に顔面移植を受けることになる。右下顎動脈と前側顔面の静脈、鼻全体から上部唇、耳下腺、上顎洞前面壁、眼窩下壁、頬骨など移植組織は多岐にわたり、顔面神経の吻合術も施された。術後3日間は高血糖への対策が必要で、その後もタクロリムスやミコフェノール酸モフェチル、副腎皮質ステロイド、IL-2モノクローナル抗体など免疫抑制剤4剤を利用しながら術後の激しい拒絶反応に対応した。術後2年を経過し、患者の状態は安定している模様である。

PMID: 18722867 > Lancet. 2008 Aug 23;372(9639):631-8.
Human facial allotransplantation: a 2-year follow-up study.

同様に、神経線維腫の29歳男性で、顔面の大きな腫瘍のために食べることも、話すこともできずに社会的に孤立していた患者に対する顔面移植もフランスで行われている。李さん同様、術後の激しい拒絶反応は生じたものの、手術1年後には組織に感覚と運動機能が認められるようになり、患者の苦悩も大きく救われた例がある。

2年経過したとはいえ、拒絶反応との戦いは今後も続くであろうし、継続的な経過観察が必要と考えられる。

初めて顔面移植の話を聞いたときには、大きなショックを受けたものだが、心臓移植が行われるような今の時代、顔面変形の有効な治療として「移植」が行われるのも自然の流れなのだろう。

日本でも、顔の人工骨移植、本格開始:オーダーメードで欠点解消というニュースが流れていたように、ほおやあごなど顔面に移植が必要な患者に対する臨床試験が行われつつあるようだ。

▼東京大学 > カスタムメイド型人工骨 、全国10施設にて実用化に向けた臨床試験を開始
http://www.tetrapod.t.u-tokyo.ac.jp/20080714CT-Bone.pdf

このような新しい技術が積み重なり、徐々に顔面移植の幅が広がっていくのだろう。

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