[Nat Med] 記憶を消す「頭の中の消しゴム」の最小単位 

 「頭の中の消しゴム」は、アルツハイマー病を扱った映画のタイトルだが、よくできたタイトルだといつも思う。
 
 アルツハイマー病は高齢化社会を迎えた我々にとって非常に大きな脅威であり、その原因の究明が求められている。今回、ハーバード医大のShankar GMらは、アルツハイマー病患者の脳抽出物を正常ラットに投与し、ラットの学習記憶を損なう「頭の中の消しゴム」の最小構成単位は、アミロイドβ2量体であることを確かめた。

 

 
 ヒトは短期的に記憶する短期記憶と、長期間にわたって記憶にとどめる長期記憶を使い分けている。一時的に海馬に形成された短期記憶が、神経信号として脳の別の部位へ送られ、そこで長期記憶の形成を行う際、これを「長期増強(LTP)」と言う。言い換えると、シナプス結合が長期間に渡って信号の流れやすい状態になるとも言える。逆にシナプスへの電流が流れにくい状態あるいは伝達効率が長期間抑えられる状態を長期抑圧(LTD)という。
 
 今回、アルツハイマー病患者の脳から抽出した可溶性アミロイドβ蛋白質(Aβ)オリゴマーは、正常なラットの海馬で長期増強の阻害、長期抑圧の促進、樹状突起棘の密度低下を引き起こした。

 そして、抽出物中のAβ二量体は正常ラットの学習記憶も損なった。著者らは、LTDの強化には代謝型グルタミン酸受容体が必要であり、棘の消失にはNーメチルD-アスパラギン酸受容体が必要であるとしている。
 
 また、Aβ受容体のN末端に対する抗体の同時投与で異常は抑制されたが、中間領域またはC末端の抗体では異常の抑制程度が低かった。
 
 不溶性のアミロイドプラークは、可溶化されてAβ2量体を遊離しない限りLTPを阻害しなかったことから、Aβ2量体はシナプス毒性の最小構成単位であろうと考えられた。
 
情報源

PMID: 18568035  > Nat Med. 2008 Jun 22. [Epub ahead of print]
Amyloid-beta protein dimers isolated directly from Alzheimer’s brains impair synaptic plasticity and memory.