
何でも遺伝子の問題で片付くものではなかろうが、遺伝子の影響は病気を理解する上で欠かすことの出来ないものである。
以前から母胎にいるときに浴びた性ホルモンの量によって性別に違和感を感じる性同一性障害が生じる可能性は指摘されていた。今回、自分を男性だと思っている女性(これをFtMという)では、性ホルモン代謝にかかわるある遺伝子の変異頻度が高いと報告された。
オーストリアのVienna大学で婦人科内分泌生殖医療を研究しているClemens Tempferらのグループでは、性指向が一般的な対照群1,671名(男756名、女915名)と、女性から男性への性転換を望む患者(FtM)49名、および男性から女性への性転換を望む(MtF)102名について、性ホルモンの代謝にかかわるチトクロムP17(CYP17)の遺伝子の違いを比較した。
その結果、男性への性転換を希望する女性(FtM)では、普通の女性に比べてCYP17の遺伝子上にある34番目のアミノ酸がチミン(T)からシトシン(C)に置き換わっている頻度が高く、女性への性転換を希望する男性(MtF)と普通の男性の間では頻度に有意な差を認めないことがわかった。
研究者らは、今回の結果からCYP17 T-34C alleleは、FtMの候補遺伝子のひとつであり、平均以上の性ホルモンを脳の発達期に暴露された女性が自分の性に違和感を持ちやすい傾向をもつことを意味していると考えている。そして、「今回の研究目的は、性別違和感を持ち人々に性転換を薦めるために行ったわけではない」としつつも、今後、さらに性別違和感と関連する遺伝子多型が見つかってくれば、性同一性障害の診断はしやすくなるだろうと考えている。
もし、遺伝子により性同一性障害の診断がつくとすれば、性同一性障害の患者に対してより人生の早い時期からホルモン療法を行ったり、手術適応を考える上での判断材料にしたりすることができることであろう。
一方、今回の結果は、所詮以下の程度の差でしかないので、統計学的に差があったからといって、即、これが性同一性障害の判断基準になるというものでもないと思われる。
CYP17-37遺伝子上のアミノ酸の割合
FtMの人: Tの割合[56%] Cの割合[44%]
対照の女性:Tの割合[69%] Cの割合[31%]
▼News/NewScientist_’Transsexuality gene’ makes women feel like men
▼【PMID: 17765230 】Fertil Steril. 2008 Jul;90(1):56-9.
A polymorphism of the CYP17 gene related to sex steroid metabolism is associated with female-to-male but not male-to-female transsexualism.