2002年、オランダでは一定の条件を満たせば安楽死を行ってよいことが認められた。
では、法律施行後、安楽死は増えたのだろうか?
逆に、安楽死は減ったのである。
オランダ公衆衛生局のRietjens Jらは、オランダ統計局の死亡登録をもとに無作為に選んだ患者の担当医に質問票を送付し、安楽死希望の有無と死亡までの持続的な沈静期間や、使われた薬剤、余命短縮への影響、緩和の相談等の実態を調べた。
その結果、アンケートの回答率は、2001年の死亡について74%(回答数5,189件)、2005年の死亡は78%(同5,342件)で、2001年と2005年の安楽死の頻度は2.6%から1.7%へと推移し、一般開業医による沈静処置が増えていたことがわかった。
死期を早める可能性があるとわかったうえで行う持続的な沈静は、2001年で5.6%だったが、2005年は7.1%に増加していた。
ガン末期の患者などでは、苦痛を緩和するために意識レベルを低下させ、深い沈静処置が行われる。しかし、沈静の深さにはさまざまなレベルがあり、死を待つ患者への持続的な深い沈静処置に対しては、これまでにもさまざまな意見があった。
専門家らは、『患者の病気が不可逆的に進行し、1~2週間以内に死が訪れると判断されるとき、終末期の沈静は正当な行為である』としている。そして、沈静の前に緩和ケアの専門家に助言を求めることを推奨している。
ところが、現実には緩和ケア専門医に相談したケースは9%と低く、その割合は一般開業医で20%、専門医は2%、介護施設の医師で5%であった。また、94%のケースで鎮静期間は死亡までの1週間未満だった。うち死亡前24時間未満は43%で、これらの患者の約半数に、痛み、倦怠感、呼吸困難、意識の低下があり、23%は錯乱、21%は不安を示した。
安楽死を希望しながら沈静を経て死に至った患者が9%存在した。こうしたことからも、安楽死の代替として持続的な深い鎮静が用いられている可能性が考えられる。
▼【PMID: 18344245】BMJ. 2008 Mar 20 [Epub ahead of print]
Continuous deep sedation for patients nearing death in the Netherlands: descriptive study.
▼【BMJ, doi:10.1136/bmj.39504.531505.25 (published 14 March 2008)】Continuous deep sedation for patients nearing death in the Netherlands: descriptive study
http://www.bmj.com/cgi/content/abstract/bmj.39504.531505.25v2
緩慢な安楽死がいいのか?
安楽死とは明確に区別されるべき緩和医療があるべきなのか?
終末期医療をどのように捕らえて治療に当たるべきなのか、実に難しい問題である。
先日、日本泌尿器科学会を取材していて、「緩和ケア」のセッションを聴講する機会を得た。そこで、聞いたことば印象に残っている。
緩和ケアは、看取りの医療という認識を持つ人が多いが、終末期にのみ行うべきケアではない。
しかし、 多くの医師や患者は、緩和ケアというと末期の医療というイメージを持っている。
そして、医師が緩和ケアへと患者を引き渡すタイミングは非常に遅いのが現状である。
このため、緩和ケア専門医に紹介されたとき、患者は非常に大きな「見捨てられ感」を抱くというのである。
以下、かなり個人的な意見を含む内容になってしまうが、誤解を恐れずに少し書きたい。
オランダでは、せっかく安楽死を認可する法律ができたのに有効に活用できていない現実が浮かび上がっているような気がする。
最近では、がんに限らず循環器疾患等でも緩和ケアが取り入れられるようになってきているそうである。しかし、ごく少数の緩和ケア専門家だけが努力しても限界がある。
これからの時代、医療従事者や法律家だけでなく、正しい医療知識を広める努力を行政が行い、それを受け取ろうという意識を患者側ももつことが大切なのではなかろうか?
高齢化社会におけるよりよい医療の実現につながるためには、非医療従事者の意識向上も非常に大切なことだと思う。