人は、大量の情報をわずかの時間だけ覚えていれば良い場合、情報精度を下げてでも多くの情報を覚えようとするのだろうか?それとも、少数の情報を詳しく覚えることを選ぶのだろうか?
二つの数値を足したり、絵を見比べるときには作業記憶と呼ばれる能力が利用される。これまでの研究で作業記憶の貯蔵量には限界があると言われている。また、 子供の学業不振の原因には作業メモリー不足が関与していることを知の冒険において取り上げたこともある。
今回、カリフォルニア大学デービス校のW Zhangらは、作業記憶の容量制限の質についての研究を行った。
18~35歳の被験者は、コンピュータモニター上に現われる色付きの四角印をクリックし、同時に覚える作業を行った。そして、その作業結果を覚えているかどうかをサークル上の色見本と照らし合わせて、どのような色であったか近い色を選んでもらうことにした。作業記憶に情報が保持されていれば、オリジナルカラーと近い色を選ぶはずである。逆に記憶品質を落としてでも数を覚えようとしていたならば、記憶品質低下がオリジナルカラーとの隔たりで確認できるだろう。
検討の結果、被験者は対象の一部について高品質表現を保持したが、他の情報は保持していなかった。このことから、作業記憶において、人は情報量を増やそうとして記憶品質を低下させるのでなく、個別の一定品質を持った少数の表現を作業記憶にとどめるのだと考えられた。
▼【Nature 453, 233-235 (8 May 2008)】
Discrete fixed-resolution representations in visual working memory
素人考えではあるが、個人的には当たり前の結果のように思えてしまう。
連続20コマの映像を5つ飛ばしに記憶するか、20コマを判別できないほど荒い画像で記憶するかどちらが正確に映像を再現できるか考えてみれば、分かりやすいのではなかろうか?飛ばし飛ばしであってもそれぞれの映像を正確に記憶する方が効率よく場面を再現できることだろう。
ウェブ上に画像を置くとき、ファイルサイズを減らすために減色操作をすることがある。しかし、この作業のためにはソフトウェアが必要である。今回の結果は、人がこの種のソフトウェアを脳内に備えていないか、もしくは利用していないことを示すものであろう。生体は、シンプルであることを好むと考えれば、納得のいく結果に思える。