[NEJM] 喘息患者がロンドンの町を歩いてわかったこと

ロンドンの町を歩きませんか?
そんな呼びかけだったのかどうかは知らないが、ある日あるとき、ある実験のためにロンドンの町を歩こうと集まった者たちがいる。彼らは、研究者の指示に従い、あるときは、交通量の多いオックスフォード通りを、あるときは近隣の緑豊かなハイドパーク(Hyde Park)内を2 時間歩くことになっていた。

:idea: 今回、Imperial College, and Royal Brompton Hospital のJ. McCreanorらは、喘息患者を対象に、ディーゼル車の排出ガスが都市の沿道においてどのくらい悪影響をもたらすものかを調べることにした。集まったのは、軽症もしくは中等症の喘息患者60名である。

:?: 無作為化クロスオーバー研究として行われたこの実験では、沿道沿いもしくは公園内を被験者に2時間歩いてもらい、排ガスの曝露量や生理学的な検査をリアルタイムに行った。実験の結果からハイドパーク内よりもオックスフォード通り沿道のほうが排ガス(2.5 μm未満の微粒子、超微粒子、元素状炭素、二酸化窒素など)は有意に高いことが確認されている。

排ガスの多かったオックスフォード通りを2時間歩いた場合と緑豊かなハイドパーク内を2時間歩いた場合を比較したところ、オックスフォード通りを歩いたときには肺機能が低下(FEV1秒量や努力肺活量はそれぞれ6.1%、5.4%低下)し、その低下の程度はハイドパークを歩いたときよりも大きいことがわかった。

また、オックスフォード通りを歩いたときの方が好中球性炎症のマーカーである喀痰中ミエロペルオキシダーゼ上昇が大きく( 4.24 ng/mL vs. 24.5 ng/mL)、気道の酸性化も両者で差を認めた(0.04% vs. 0.19%)。

本結果は、交通量が多く排ガスへの暴露量の多いところを歩いたときに生じる呼吸機能低下や炎症反応の亢進と超微粒子と元素状炭素への曝露には関連がみられたことを示すものであり、ディーゼル車の排ガスへの暴露と喘息患者の肺機能を関連付ける疫学的エビデンスを裏付け、説明するものである。

【PMID 18057337】Respiratory Effects of Exposure to Diesel Traffic in Persons with Asthma

8-O 道路交通量の増加にともなって生じる大気汚染は健康に深刻な危険をもたらし、呼吸器疾患のリスクを高めることが数々の研究で示されている。今回の報告は、排ガスが呼吸機能を低下させると言う点では従来研究の追試に過ぎないが、クロスオーバー試験によってリアルタイムに呼吸機能低下と排ガス量の関連を示したところが面白い。

健康に良かれと思ってウォーキングを続けていても、都市部の排ガスだらけの沿道沿いを歩くことでかえって肺を痛めつけているのかもしれない。散歩するなら緑豊かな公園を散歩するほうがよいのだろう。