[Eur Resp J] ベビーパウダーに転移性肺がんの治癒促進効果

赤ちゃんのおむつかぶれの予防に使われてきたタルクパウダー(化粧用滑石粉)によって、転移性肺がんの特効薬ともいわれるエンドスタチン(endostatin)というホルモンがつくられることをフロリダ大学の研究者らが欧州呼吸器学雑誌(the European Respiratory Journal )の4月号に報告している。不治の病が家庭にある日用品で直る可能性があるというのである。

:idea: 転移性肺癌の患者の多くは肺の表面に水分が溜まって呼吸が困難になるが,ヨーロッパでは70年来,この症状を軽減するためにタルクを胸膜に注入する方法がとられてきた。胸水は、胸、肺、または胃腸管で生じた癌が全身に広がったことを意味している。

FDAは、胸腔鏡検査時にタルクを使用することを2003年に認めており、日常的に使われるようになっていた。今回、Veena Antonyらは、こうした胸腔鏡検査を受けた患者が予想されたよりも長く生存(18ヵ月の延命)することに気がつき、がん患者16名の胸水を回収し、悪性の胸水と比較観察することにした。

すると、なんと驚いたことにタルクを処置して1日後には転移性肺癌の特効薬ともいわれるエンドスタチンというホルモンが正常な細胞から産生されるよりも10倍高値を示したのである。

エンドスタチンは、1997年に発見された当初、がん細胞による血管新生を防ぎ、増殖と運動を抑制することから抗腫瘍効果があると期待されたが、臨床医によってこのホルモンを直接注射した臨床試験の結果が思わしくなく、期待はずれに終わったという過去をもつ。しかし、Antonyによるとエンドスタチンは半減期が非常に短かったため、直接注射したのでは効果を発揮することが出来なかったと思われる。

博士は「安価で容易に使用できる旧来品は、患者にメリットをもたらし、生命予後を改善するだろう」と驚きを語り、タルクを使った胸膜癒着術を施行した患者の長期予後を引き続き調べていく予定である。

こちらにビデオによる研究報告が紹介されている。
Video

【Eurk Alart】Talcum powder stunts growth of lung tumors
【University of Florida】Talcum powder stunts growth of lung tumors
【PubMed】Eur Respir J. 2007 Apr;29(4):761-9. Epub 2007 Jan 24.
Talc mediates angiostasis in malignant pleural effusions via endostatin induction.

8-O 転移性肺がん患者の予後延長が本当にタルクによるものかどうかは、今後の更なる研究結果を待つ必要があると思うが、なかなか面白い研究結果だと感じた。同じ著者が Lancet. 2007 May 5;369(9572):1494-6.にARDSとタルクによる胸膜癒着術についてもコメントを書いている。