あ、冷て!!
そのとき神経細胞膜上の彼は脳への信号を送った。
彼は、低温を感じ取って神経細胞のカルシウムイオン流入を増やしたのである。その彼の名は、TRPM8という。
感覚神経線維ではTRP(thermosensitive excitatory transient receptor potential)の活性化によって幅広く温度変化を感じ取ることが出来るといわれていたが、TRPM8(TRP melastatin 8)は、そのうちのひとつにあたる。
TRPM8は、ミントの主成分であるメントールに反応する蛋白として知られ、これまでにも冷感と関係すると言われたことがあった。しかし、冷感には別の蛋白が関係するとの意見も出されていた。
今回、米カリフォルニア大学のDiana M. BautistaらがNature5月30日のオンライン版に報告したところによると、彼らは感覚神経ニューロンの培養系とTEPM8を欠損させたマウスを用いた実験より、TRPM8が冷感に重要な役割を演じていることを示した。
マウスの後ろ足を冷気に曝したとき、通常なら冷気を感じ取って神経細胞の細胞内カルシウム流入量が増加したり、電気信号の変化がおこる。ところが、TRPM8を欠損したマウスでは、冷気を嫌がるしぐさをあまりせず、後ろ足に冷たいパテをあててもカルシウムイオンの流入量や電気信号変化も乏しかった。ただし、温度10℃以下では、しっかり反応したため、更なる低温では別の経路が関与している可能性も考えられた。
▼Nature. 2007 May 30; [Epub ahead of print]
The menthol receptor TRPM8 is the principal detector of environmental cold.
たしかに、薄荷(はっか)をなめるとヒヤっとした感触を味わえるので、この蛋白が冷感とかかわりがあるというのもわかる気がする。
また、痛いところを冷やして痛みを和らげようとすることもあるが、もしかしたら、冷やすことによってTRPM8を活性化させて痛みを和らげていたのかもしれない。もし、そうだとすれば、TRPM8は鎮痛剤開発に応用可能であり、面白いかもしれない。