[Nature Communication] 膀胱の器と時計をつなぐもの

なぜ今なんだ?
と思えるようなタイミングで突然トイレに駆け込む我が家の息子。

彼の膀胱時計は狂っている。

Rush into a toilet

子供や高齢者では夜間にトイレに起きだす症状がしばしば見られ、これは夜間頻尿と言われる。
子供では夜尿症(おねしょ)と呼ばれ、高齢者では夜間頻尿と総称されることが多い。
夜間頻尿の多くは昼間よりも夜間に尿量が多い夜間多尿を示す。

夜間に尿量が多くなるのにはいくつかの要因があり、睡眠時の腎臓での尿産生速度が増えるだけでなく、膀胱での貯留容量が小さくなってしまい、多くの尿を溜められないことも原因のひとつである。

京都大学の研究グループは、膀胱の体内時計が良好な睡眠を確保する仕組みにつながることを見出し、この結果をNature Communication誌に発表した。

研究者らは、膀胱に伝えられた刺激を細胞から周囲の細胞へと連絡する働きを持つたんぱく質コネキシン43と体内時計との関係に着目した。膀胱のコネキシン43量を調べた結果、コネキシン43は活動中に増加し、就寝中には減っていることがわかった。また、コネキシン43の働きを抑えたマウスでは、通常のマウスよりも1回の排尿量が平均2倍増加することがわかった。

また、著者らの一連の研究により、時計関連因子であるRev-erbαは、Sp1の共因子としてプロモーターのSp1cisエレメントを使ってconnexin43の転写を増加させることがわかった。このことから、コネキシン43の概日変動は生物時計と関連していると考えられた。著者らは、コネキシン43を含む時計関連因子が膀胱容量の日内変動の一因だと言っている。

▼PMID: 22549838
Nat Commun. 2012 May 1;3:809. doi: 10.1038/ncomms1812.
Involvement of urinary bladder Connexin43 and the circadian clock in coordination of diurnal micturition rhythm.

著者らは、今回の研究報告に当たって評価方法にも名前をつけている。マウスは1回排尿量が少ないために尿量評価が難しかったが、遺伝子研究には非常に有用な実験動物である。排尿量の少ないマウスの尿を評価するためには工夫が必要であり、評価を実現するために、彼らはローラー型のろ紙を一定速度で巻き取りながらマウスを飼育し、ろ紙についた尿のしみを1回の排尿としてどのくらいの尿が排尿されたかを長時間モニターするシステムを作った。

この評価系に「aVSOP(automated voided stain on paper)法」という名前をつけたのだ。

この論文の内容もすばらしいものだが、こうした試験評価方法に妥当な名前をつけるというのも論文が受理されやすくなるひとつのポイントかなと最近思うようになってきた。

ところで、膀胱というのは不思議な臓器で、風船が空気で膨らむように尿が作られる毎に膀胱を構成する平滑筋細胞が伸展し、膀胱が大きく膨らむようになる。ただの容器と考えられてきたものが、実はさまざまなシグナルを受信し、全身へ指令を送っていることも徐々にわかってきており、これから解明されることがまだまだあると思われる。

Rush to the toilet

こうした症状は尿意切迫感と言われる。
現在、尿意を感じ、これを我慢する仕組みについても多くの研究が進んでいる。「排泄・排便」「食欲・満腹感」「睡眠・起床」こうした日常に何気なく実行している行動は、いかに制御されているのだろうか。考え始めるとわからないことだらけなのである。