[Nature] 長寿薬の可能性

「ワインはいかがいたしましょうか?」

「長寿の秘薬、赤がいいね・・・」
酒を酌み交わしながら、ハーバードメディカルスクールのJoseph A. Baurは、最近の自分の研究について語り始めた。
「赤ワインのポリフェノールの中でも、レスベラトロールはすごいんだよ・・・」

Joseph A. BaurらがNatureの11月16日号に報告したところによると、赤ワインに含まれる成分、レスベラトロール(3,5,4′-トリヒドロキシスチルベン)を餌に混ぜて与えた結果、高カロリーの餌を摂取して太るはずだったマウスが、普通の餌を食べているマウスなみの変化に抑えられ、対照マウスよりも生存期間が3~4ヶ月長くなったそうである。

リスベラトロールの延命効果は、すでにイースト菌や寄生虫などの虫、ハエ、および魚で示されてきていたが、今回、その効果が哺乳類でも示されたことになる。

レスベラトロールを摂取したマウスでは、寿命延長に関係する変化が起こっていた。すなわち、インスリン抵抗性を起こすこともなく、IGF-1レベルの低下、AMPキナーゼやペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-γコアクチベーター1α(PGC-1α)活性の亢進、ミトコンドリア数の増加、が観察されたのである。

さらに、PAGE解析解析の結果、高カロリー食で変化する153経路中144経路をレスベラトロールが抑えることがわかり、こうした一連の研究から、肥満や加齢に起因する疾患に対して、低分子化合物による治療アプローチの可能性が見えてきた。

【Nature】Nature 444, 337-342 (16 November 2006)
Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet).
赤ワインは長寿の秘薬 [NIH News/Nature]
Study Demonstrates Improved Health, Survival In Aged Overweight Male Mice on Resveratrol
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これまでにも、聞き飽きるほど「赤ワインのポリフェノールが体に良い」という話を聞いてきたが、ここまで分子メカニズムに立ち入っての研究はなかったのではないだろうか?

昨日、3年ぶりくらいに酒を酌み交わした同僚は、次から次へと赤ワインを注文していた。そんな彼を見て、「レスベラトロールの研究」について話題にすると、「難しいことはよくわからん!」けど、「美味しいから、もっと赤ワインを飲みたい」と追加注文するのであった。

あっという間に3本ほどボトルを空けて幸せそうにしているその姿を見ていると、成分以上に幸福感こそが、赤ワインの主作用じゃないかとすら錯覚してしまう。

赤ワインによる健康効果の本体が徐々に明かされていくことで、低分子による夢の長寿薬開発に弾みがつくのかもしれない。