[Science] 悲しみの涙は、男の感情を揺さぶる物質を含む

女の涙は男の感情を揺さぶる物質を含む

日本のメディアでも「女性の涙に「逆フェロモン」…男性の興奮鎮静化」などとして紹介されていた記事ですが、Nature誌にもScienceの原著をもとにした興味深い記事が出ていましたので、遅ればせながら、ご紹介。イスラエルにあるワイツマン科学研究所のチームがScience誌2011年1月6日号に発表したところによると、女性の涙には男性の感情に影響する化学物質を含んでいることが示された。

複数の女性ボランティアに悲しい映画を見せ、涙を採取し、涙と塩水をしみこませたシートを男性被験者の鼻の下に別々に貼り付けて女性の顔写真を見せた。

顔写真をみた女性に対する性的魅力を問うたところ、涙をかいだ男性は、食塩水をかいだ男性に比べて、女性の性的魅力を低めに感じる傾向が見られた。一方、共感を持つ程度は同じだった。

また、別の実験において、ボランティア男性50名に涙か生理食塩水を嗅いでもらい、自己申告によって性的興奮の程度を評価したところ、食塩水では変化が起こらなかった一方、涙をかいだ男性では唾液中の男性ホルモンが低下した。さらに、16名の男性に機能的磁気共鳴映像法(fMRI)を用いて、性的興奮にかかわる脳部位の活動を測定したところ、涙をかいだ男性は、食塩水をかいだ男性に比べて活動の低下が観察された。

これまでにマウスを使った実験で性的な誘引物質として作用するという結果が報告されていましたので、ヒトの涙が共感の程度を変化させず、性的興奮を減退させるという今回の結果は、困惑を持って受け入れられたようです。

多くのメディアでは「涙は女の武器」という文脈で、涙が男を落とすのに積極的な効用を持っている前提で書かれていました。しかし、考えてみれば、「女の涙が武器になる状況」というのは、恋愛において相手の性的興奮を引き起こしたい場面で発揮されるのではなく、女にとって都合の悪い状況でこそ発揮されるものかもしれません。

メリーランド大学ボルティモア校のRobert Provineは、今回の結果について「涙は攻撃性を減退させる」という既存の結果と一致していると述べています。

浮気がばれた女性が涙を流して謝罪する場面を想像してみてください。
男の攻撃性を回避させる涙として、これは女の武器になっていることでしょう。

悲しい出来事があって泣いている女性を見て、「ああ、この人を守ってやりたい」と思う男性はいるでしょうが、「ああ、コイツとヤリたい!」などと、その場面で性的興奮を感じるとしたら、それは人としてどうなのかって話です。

Natureの記事には、ヒトの嗅覚を研究しているライス大学のDenise Chenらの見解として、次のようなことを紹介しています。

「ヒトのフェロモンの存在はいまだ論争中ですが、ヒトの汗には、自己同一性や遺伝的な関係、情動や健康に関する情報を伝達していることが報告されています。今回の研究は、ヒトの涙にも科学信号が存在することを示す、非常に興味深い証拠でしょう」

と。

今回の研究では、悲しい映画を見て流した涙を用いています。

今後はたまねぎなど感情とは関係しない科学物質による涙に同じ成分が含まれているか、あるいは、笑いすぎて出てきた涙ではどうなのかといった疑問も出てきます。

玉ねぎを使った科学刺激による涙の実験は簡単にできそうですが、うれし泣きの実験には、涙の採取に、なかなか苦労しそうです。

いずれにせよ、マウスなどに比べると人間の臭覚は感度がわるいとはいえ、本能的な働きを失ったわけではなさそうです。今後の研究が楽しみです。