病気で辛い症状を抑えるために使っている薬がもっと大きな危険を伴うとしたら、これは考えものである。以前に院内肺炎のリスクを酸分泌抑制剤が高める可能性が報告されていたが、今回、高齢者の市中肺炎でも酸分泌抑制剤の投与が危険因子になることが報告された。
カナダのEurich DT氏らが米国医学会誌に報告したところによると、6施設の肺炎治療患者から65歳以上の高齢者のデータをもとに、肺炎再発症例について年齢、性別を一致させた非再発肺炎症例との比較検討を実施したそうだ。結果、平均5.4年の追跡期間中に284名に再発を認め、対照として2476名が抽出された。対照のうち608名にヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬が投与されていた。
肺炎の再発頻度は、酸分泌抑制薬を投与されていなかった者よりも投与されていた者の方が1.5倍(8% vs. 12%、修正オッズ比1.5:95%信頼区間1.1-2.1)高かった。なかでも90日以内にPPI/H2ブロッカーを投与されていた患者の再発肺炎リスクは高かった。これらの結果は、肺炎の高リスク高齢者への酸分泌抑制薬投与は再発肺炎を増加させること危険をもつことを示している。
▼PMID: 20102991
Am J Med. 2010 Jan;123(1):47-53.
Recurrent community-acquired pneumonia in patients starting acid-suppressing drugs.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/20102991
胃もたれ、胸やけというと簡単に胃酸分泌抑制薬を投与し、「様子を見ましょう」という姿が見受けられる。逆流性食道炎という病気があるが、かならずしも胃酸分泌過多ではなく、アルカリ型の食道炎もある。にもかかわらず、検査を行うわけでもなく(もっともそんな検査をやっていられないのだが・・・)、やみくもにPPIを処方する。
これを藪医者と呼ぶのは乱暴だが、僕に言わせれば思慮なく処方しているとしたら藪医者である。
酸分泌抑制薬は胃内のpHを4以上にすることを目指して使われるが、pHが4以上になると今度は多くの細菌が増殖可能となってくるそうだ(参考1)。こう考えると、胃酸を抑えることで細菌の増殖が可能となり、胃内の細菌が食道を逆流して肺内へと流れ込み、肺炎が起こりやすくなるというストーリーが考えられる。事実、睡眠中には胃内容物が食道へ逆流して、一部は気管に無意識に吸い込まれている可能性(参考2)も示されている。
参考1▼PMID: 3633241
Infect Control. 1986 Jan;7(1):23-6.
Alteration of normal gastric flora in critical care patients receiving antacid and cimetidine therapy.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/3633241
参考2▼PMID: 645722
Am J Med. 1978 Apr;64(4):564-8.
Pharyngeal aspiration in normal adults and patients with depressed consciousness.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/645722