[J Thorac Cardiovasc Surg] 拡張型心筋症患者の「心」をつかむ治療法

胸を開いて心臓をむき出しにして手術する代わりに心臓を包み込むラップをかける新手法が開発されている。標準的な心不全の治療法で症状を改善できない心不全の人に対して胸を大きく開ける手術をすることなく有効な治療の可能性が報告された。

フロリダ医科大学のKlodellらは、現在開発中のParacor HeartNet装置の重症の拡張型心筋症に対する安全性と有効性を調べた。

HeartNet
ビデオによる手術の紹介

操作手順は”mini thoracotomy” と呼ばれるアプローチで、カテーテルを肋骨の間から心臓へと通し、先につけてあった伸縮するメッシュで心臓をくるむものである。

カテーテル先端から切り離されたメッシュは、拡張型心筋症で肥大した患者の心臓をギュッとわしづかみにし、緩やかに心臓壁を支えることになる。この手術は通常の麻酔下で約90分で終了し、通常は5~6日あれば退院可能である。

今回の報告は、世界中で使われた最初の51名の使用経験で、対象患者は、過去少なくとも3ヶ月間は内科治療を受けて効果のなかったNIHA分類IIまたはIIIで駆出率35%以下の患者(平均年齢52歳)であった。

手術は51名中50名(98%)で完了し、有害事象は二次的な肺合併症含む院内死亡2名(4%)、術後肺合併症7名(14%)、不整脈14名(27%)心外膜断裂2名(4%)、膿胸1名(2%)であった。

半年後のデータでは、6分間歩行テスト(+65.7)やMinnesota Living with Heart Failureスコア(-15.7)の改善が認められた。

今回の結果は、確かにHeartNet装置が心不全や左室機能の低下に対して効果があることを示しており、今後の無作為化試験実施を支持するものである。

【Paracor Therapy】HeartNet? Procedure
【PMID: 18179940】J Thorac Cardiovasc Surg. 2008 Jan;135(1):188-95.
Worldwide surgical experience with the Paracor HeartNet cardiac restraint device.

拡張型心筋症に対する手術術式のひとつとして肥大した心臓を切り取って小さくし、心臓の収縮機能を回復させる手術として「左心室縮小形成術」、いわゆるバチスタ手術というものがある。

昨年、フジテレビでも医龍というドラマが人気をよんでいたし、チームバチスタの栄光という小説でも難手術として紹介されている。

バチスタ手術は、心臓移植の代替手術として患者の状態が劇的に改善される例も多いが、一方で手術手技が難しく、胸を大きく開けての手術である。このことからより簡単で患者への負担も少ない手術が実現すれば、そのメリットは非常に大きいと思われる。

今回の報告において有害事象を見る限り個人的には、Paracor HeartNet装置を用いた手術が決して安全だとは感じないのだが、この手の疾患を考えると手術が手術だけにこれでも非常に素晴らしいことなのだろう。

近頃はメッシュを用いた治療が大きな技術革新を遂げているように感じる。これから先、この比較的新しい技術はメッシュで心臓を包み込むだけでなく、医師のみならず患者の心もつかむ新しい治療方法になるのかもしれない。